北方領土交渉へ環境整備を
日本とロシアが初の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催した。防衛交流を拡大することで、北方領土交渉に向けた環境整備を進めることが最大の目的だ。したたかなロシアのペースに巻き込まれないよう注意しながら日露関係に厚みを持たせ、首脳同士の交渉を側面支援すべきだ。
中国への警戒感を共有
協議では自衛隊とロシア軍による海賊対策の共同訓練を実施することで合意。日露防衛相の相互訪問を定例化することや、サイバー安全保障協議を開始することでも一致した。ロシア側は次回の2プラス2を来年、モスクワで開くことを提案した。
安全保障分野での日露協力拡大を進める背景には、中国への警戒感を両国がある程度共有していることがある。中国は北極海航路開拓に積極的に乗り出しており、海軍のオホーツク海進出はその一環である。
ロシアは中国の北極海進出を牽制(けんせい)するため、北方領土駐留部隊の立て直しや、空港改修などのインフラ整備を進めている。中国から北極海に向かう航路は北方四島付近を通過しており、北方四島の軍事力近代化で圧力を掛ける狙いがある。
日本も尖閣諸島をめぐり中国の進出圧力にさらされており、ロシアとの利害が一致する形となる。もっとも、ロシアは中国との蜜月関係を演出してきた。ロシアは成長著しい中国が脅威となることを恐れており、だからこそ中国を味方につけておきたいと考えている。ロシアが米国などと渡り合う上でも、中国との“蜜月関係”がロシアの立場を強める効果をもたらす。
このため、今回の2プラス2でロシア側は、岸田文雄外相が最近の日中対立について説明してもほとんど反応せず、日本と歩調を合わせようとはしなかった。それはロシアとして当然であり、そう簡単に対中関係で日本の立場に理解を示すような発言はしないだろう。ロシアにとって、日露2プラス2の開催自体が中国を牽制する材料となる。それは日本にとっても同様だ。2プラス2では北極圏での日露協力も確認した。
2プラス2の後、ロシアのラブロフ外相とショイグ国防相は首相公邸を訪れ、安倍晋三首相と会談した。首相は「2プラス2の実現は両国の信頼関係を大きく発展させていくものだ」と歓迎し、日露関係の強化を通じて平和条約交渉の進展を目指す考えを示した。ラブロフ氏は「2プラス2が信頼関係の強化に重要な役割を果たすだろう」と述べるにとどまったが、現時点ではそれで十分であろう。
北方四島返還の実現はロシアとの交渉を通してのみ可能である。経済、人的交流に加え2プラス2の開催により安全保障分野でも日露協力を拡大させることは、両国首脳同士の信頼関係構築を支援する形となる。
焦らず信頼関係強化を
日露の大きな隔たりを埋めるには両首脳が信頼関係を強め、トップダウンによる解決を図るしかない。したたかなロシア相手に焦りは禁物である。安倍首相はロシアのペースに巻き込まれることなく日露対話のチャンネルを広げ、4島返還に向けた領土交渉を進めるべきだ。
(11月4日付社説)