施政方針演説、真の「改革」へ議論尽くせ


 安倍晋三首相は昨年12月の衆院選後、初の施政方針演説を行った。首相の経済政策であるアベノミクスの成果を踏まえた演説だっただけにさらなる改革への意欲が強調されたが、今国会の最大の焦点とされる安全保障法制の整備について踏み込んだ発言はなかった。

 抑制的な憲法、安保発言

 「この国会に求められていることは、単なる批判の応酬ではない」のは確かだが、改革の「断行ありき」であってはならない。丁寧な説明と与野党による建設的な議論を尽くした上で、真に求められている改革を推進していくべきである。

 安倍首相は「安定した政治の下で、この道を、さらに力強く、前進せよ」というのが総選挙で示された国民の意思であると強調した。アベノミクスを訴えての国政選挙3連勝という実績によって演説には力が入ったのだろう。

 しかし、「改革」という言葉を36回も連呼した割には具体策に乏しかった。「戦後以来の大改革」であるはずの憲法改正については「国民的な議論を深めていこう」と呼び掛けたにとどまった。昨年1月の演説では「責任野党」と政策協議を行うと語ったが、改憲政党の議席後退によって抑制された発言となったのだろう。

 だが、首相は来年夏の参院選後の改憲発議を目指すことを明らかにしたばかりだ。そうであれば、どの条項の改正を発議するのかなどについて衆参両院の憲法審査会で議論を深めるような提案があってもよかった。

 安保法制についても「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする安全保障法制の整備を進めていく」と述べるにとどまり、集団的自衛権の行使に関して直接触れなかった。

 米軍などを後方支援するための自衛隊海外派遣を可能にする恒久法の制定も首相の持論である。慎重な公明党との与党協議を控えて触れなかったのだろうが、今後、説得を強めていかねばならない。

 演説の冒頭で、シリアにおける邦人殺害テロ事件について「非道かつ卑劣極まりないテロ行為を断固非難」し、日本人の安全確保に万全を期すと語ったことは当然である。では、どういう形で対処していくのか。この問題に国民が強い関心を抱いている今、情報能力の強化や自衛隊の役割などについてもっと時間を使ってもよかった。

 首相が特に重視したのが農協改革だった。明治時代を生きた岡倉天心の「変化こそ唯一の永遠である」との言葉を引用しつつ、変化を恐れてはならないと訴えた。もっとも、課題の多い農業に明るい展望が開けるような具体策がなければならない。自民党の支持基盤に切り込む姿勢を示す手法は、小泉純一郎元首相の郵政民営化の時と似ているが、世論の支持をあてにしたポピュリズム政治は避けるべきだ。「教育再生」も道徳教育には触れず経済面からのアプローチが目立った。

 結論ありきで先走るな

 求めたいのは、改革の名にふさわしい政策の断行である。結論ありきで先走るのではなく、熟議を経ての改革推進でなければならない。

(2月13日付社説)