米安保戦略、脅威への実効性ある対応を


  米オバマ政権は、包括的な対外政策の指針となる「国家安全保障戦略」(NSS)を発表した。それに先立って、大統領は議会に2016会計年度(15年10月~16年9月)の予算教書を提出した。予算教書では、国防費とそれ以外の裁量的な支出による政策経費が、歳出の強制削減で定めた水準を740億㌦ほど上回った。

 いずれも残り2年間のオバマ米政権の方向性を占うものとして、慎重に吟味しなければならない。

 過激組織との地上戦回避

 NSSは10年以来5年ぶりの発表となる。オバマ政権では2度目の策定であるが、13年後半公表の予定が遅れていた。10年版の52㌻から29㌻に大幅に短縮されたものとなった。

 この時期の発表は、イラクとアフガニスタンでの二つの戦争の終結をはじめとする大統領のレガシー(政治的遺産)作りの一環として、オバマ外交の正当性を強調する意味合いがある。同時に、過激組織「イスラム国」や国際テロ組織アルカイダなどとの戦いを前面に押し出した戦略となった。

 シリアやイラクの混乱から生じた「イスラム国」の壊滅に向け、同盟国と協力して対応能力を強化する決意を改めて表明した。だが、米軍事専門家の間では地上部隊投入が勝利への近道だとする議論が既に公然と行われている。人質殺害事件などを受け、米議会でも投入を求める声が根強い。

 NSSではアラブ諸国を含む有志連合を率いて「弱体化させ、最終的に打ち負かす」との決意を繰り返したものの、冒頭から「脅威に基づいて決断する際、常に行き過ぎを避けなければならない」と述べており、高いコストを要する大規模な地上戦は避けるという思惑が透けて見える。これでは同盟国ばかりでなくテロ組織も、米国がテロとの戦いで世界をリードしていく決意を感じられないだろう。

 アジア太平洋との関わりでは、北朝鮮による挑発、東・南シナ海の領有権をめぐる対立激化の危険性を指摘。日本、韓国、オーストラリア、フィリピンなど地域の同盟国との関係強化によって「危機に対する各国の対処能力の向上」を図る方針を示した。

 また「米国は太平洋国家であり続ける」として、アジア太平洋のリバランス(再均衡)政策の堅持を重点項目に挙げた。「アジアの長期的な針路を定める上で、米国の指導力は今後も不可欠」と強調している。

 とりわけ中国については「建設的関係の発展を探求する」一方、「海洋安保、貿易、人権などの問題で、国際的なルールや規範を守るよう」主張して「中国軍の近代化とアジアでのプレゼンス拡大を注意深く監視する」ことを明記した。

 オバマ政権のアジア重視の背景には、台頭する中国への警戒感がある。

 リーダーシップが必要だ

 安全保障上の脅威への対応において、各国との協調を基盤とすることは重要だ。だが、その前提として軍事力を背景とした米国の強いリーダーシップがなければ実効性を持つことはできない。

(2月12日付社説)