特定秘密保護法案にスパイ防止法案同様の反対紙面を構成した朝日

 ◆多数の賛成を載せず

 特定秘密保護法案が国会に提出された翌日、朝日26日付は異様な反対キャンペーンを張った(26日付)。

 1面トップで始まり、2面はほぼ全面を使って「秘密保護 懸念と疑念」を載せ、中面では1ページを割いて同法案の全文(要約ではない)、社会面では「あれもこれも秘密?」「居酒屋の会話で逮捕?」と批判のオンパレード。社説は通常の2本ではなく「この法案に反対する」の1本。何がなんでも法案を潰したいらしい。

 2面においては「検討いつから 85年、世論の反対で廃案」との見出しで、1980年代に自民党が国会に上程したスパイ防止法案について触れ「世論の反対で廃案に追い込まれた」と書いている。なんとも不可解な記事だ。これは事実と違っている。

 廃案の真相は、同年秋の臨時国会で社会党や共産党などの野党が審議拒否を貫き、会期切れで廃案になったというものだ。朝日が言う「世論」は、共産党などの「左翼世論」であって、なにも「国民世論」ではなかった。

 86年秋に自民党が再び、上程の動きを見せると、朝日は前代未聞の反対キャンペーンを張った。11月25日付朝刊は紙面のほぼ半分を埋め尽くして反対特集を組み「増える反対決議」などと「反対世論」を演出した。

 だが、これも事実と違っていた。「増える反対決議」と言っても同年秋までの1年間に95議会で、これに対して賛成決議は200以上にのぼった。総数では賛成決議は28県1690区市町村、反対決議は210区市町村(同年11月)で、賛成決議が圧倒していた。

 こんなふうに朝日は反対世論を装った。キャンペーンは異様を通り越し、識者に「気違いじみている」(弘津恭輔・元総理府副長官)とまで言わしめた。

◆反対するため歪曲も

 当時、スパイ防止法潰しの音頭を取ったのは共産党の常任幹部会声明(同党機関紙『赤旗』同年7月7日付)とされ、これを受け朝日労組が社内でさかんに集会を開いた。反対特集を組む1カ月前(10月22日)には同社の編集顧問、秦正流氏を招いて講演会を開いた。

 秦氏はソ連の対日工作責任者イワン・コワレンコ・ソ連共産党国際部副部長と“最も近い日本人”と呼ばれた人物で、「私たちは敏感に反応しなければならない。早い段階に、潰すべきものは、潰してしまわなければならない。このことを繰り返し確認したい」とぶち上げた。それを契機に朝日紙上で反対キャンペーンが展開されたのだ。

 こんな故事を26日付紙面は思い出させてくれた。実は朝日のスパイ防止法潰しの欺瞞を本紙が暴いたことがある。朝日は東京から米国に亡命したルラッシュ・元ポーランド駐日大使の会見記事で、同氏がスパイ防止法に反対しているかのように書き、それが歪曲だと本紙は明らかにした。

 問題の朝日記事は85年12月31日付で、「(ルラッシュ氏は)日本で繰り返し台頭しているスパイ防止立法の試みに対して『スパイ対策は法律をつくらなくてもできる』と指摘」などと書き、同法に反対しているかのように報じた。

 えっと思わせる記事だった。ソ連スパイと戦い命懸けで亡命したルラッシュ氏が本当にスパイ防止法を要らないと語ったのか。疑問を抱いた本紙特派員がルラッシュ氏に会って問いただしたところ、氏は驚き、朝日記事を言下に否定した(本紙86年1月10日付)。

 あまりにもひどい記事にルラッシュ氏は「(会見した)村上氏は総局長という責任ある立場なので信用した。それが“歪曲”されて残念だ」と憤り、朝日ワシントン支局に抗議した(同1月20日付)。

◆正気を失う朝日報道

 ことほどさようにスパイ防止に関わる法案となると「気違いじみている」のが朝日である。ただし特定秘密保護法案はスパイ防止法ではない。かつての自民党案は秘密を外国に通報する目的で収集しようとする行為を「スパイ行為」と規定し処罰するとしていた。今回の法案には「スパイ罪」がなく、あくまでも情報保護にとどまる。

 それでも朝日は正気を失う。いったい社内で何が起こっているのだろうか。何かの声明でもあったのか、それとも現在版「秦正流」が音頭を取っているのか?

(増 記代司)