安保強化へ宇宙基本計画の着実な取り組みを


 政府の宇宙戦略本部(本部長・安倍晋三首相)が、安全保障と宇宙産業の育成を重視した新しい宇宙基本計画を決定した。

 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、宇宙を利用することでその能力を高めるとともに、脆弱(ぜいじゃく)化しつつある宇宙産業基盤を維持、強化することを目指すものだ。2015年度から10年間の宇宙開発の基本方針である。着実な取り組みが求められる。

衛星増加で情報能力向上

 新しい計画は、安倍首相が「新たな安全保障政策を十分に踏まえた長期的かつ具体的な計画」と語るように、安全保障重視が特徴の一つになっている。

 現行の計画は13年1月に策定したばかりだが、これを2年で改定する形になったのも、中国がアジアの海や宇宙で覇権的行動を強めるなど、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増し、宇宙の重要性が著しく増大しているためである。

 新計画はこの観点から、高い精度で位置情報が得られる「準天頂衛星」を現在の1基から10年で7基体制に整備。自衛隊を含め、日本上空から常時、位置情報を活用できるようにする。また情報収集衛星も、機能を拡充・強化して基数を増やす。さらに秘匿性の高い防衛衛星通信網も3基体制にする。

 こうした宇宙の安全保障利用における取り組みを効果的なものとするには、国際的な連携、特に日米の協力が欠かせない。その強化は宇宙政策を通じた日米同盟の深化という観点からも重要である。

 新計画では、日本の準天頂衛星と米国のGPS(全地球測位システム、もともとは軍事用だった)との連携を一層強化。一方が故障や攻撃で停止した場合、補完する体制を整える。

 また衝突すれば衛星の機能を著しく低下させる恐れのある宇宙ゴミに対し、米国などと情報の共有を進め、日本の宇宙システムが宇宙ゴミとの衝突などを避ける能力を高める。こうした内容は、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定にも反映される。

 また、新計画は民間企業の宇宙事業からの撤退が相次いだり、新規参入も停滞したりするなど揺らぎつつある産業基盤を維持、強化するため、宇宙機器産業を10年間で官民合わせて5兆円規模とする目標を掲げた。測位衛星や科学・探査衛星などの開発やロケットの打ち上げ予定を工程表に明示し、企業の「予見可能性」を高めて投資をしやすいようにしている。もう一つの特徴である。

 安全保障を重視したことで、宇宙開発の事業主体であるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の業務が公開性の欠けるものになるのではとの懸念の声が一部で聞かれる。

 だが、安全保障に直接関わる部分で非公開は当然だ。日本は08年に宇宙基本法ができるまで、欧米では普通だった宇宙の安全保障利用ができない異常な状態だったのである。

 将来見据えた政策進めよ

 強固な安全保障体制や産業基盤があってこそ、積極的な国際貢献や宇宙外交が展開できる。現実を踏まえ将来を見据えた宇宙政策を進めるべきだ

(1月23日付社説)