農業政策、バラマキより夢の後押しを
日本の農業は、いま大きな変わり目に立たされている。環太平洋連携協定(TPP)の協議が行われる中、従事者の高齢化、耕作放棄地の拡大で従来の農業は限界に来ている。一方、地方創生の一つの柱として、若い担い手による競争力を持った新しい農業への動きが起きている。
増大する耕作放棄地
しかし、今回の衆院総選挙の各党の公約を見ると、そのような日本農業の置かれた現状と変化への兆しに目をつぶるかのような、従来型のバラマキ政策が目に付く。
自民党は、強い農業を実現するために、農家の大規模化やコメの生産調整(減反)の見直しを明記し、今後10年間で全農地面積の8割を集積・集約化することを掲げている。
日本の農業ほど、選挙、政治との絡み合いで、健全な成長、時代への適応ができなかった産業はない。農家は長らく自民党の票田と見なされ、保護されて市場原理の埒外(らちがい)で育ってきた。
その日本の農政の矛盾を象徴するのが、減反政策である。減反によって増大した耕作放棄地の面積は、埼玉県の面積に相当する広さにまでなっている。それは、農業の荒廃を象徴する風景である。
安倍晋三首相は昨年11月、減反政策を2018年になくす方針を発表した。1970年から40年以上続けられた減反を放棄することは画期的なことである。しかし主食米の代わりに麦、大豆などを作った場合、生産量に応じて支払われる転作補助金は維持され、補助金行政は変わらないという批判もある。
今回の公約では、規制緩和とともに「日本型直接支払制度」の推進など保護政策を並べる形となった。公明党も、すべての農産物を対象に価格の下落で農家の収入が減った場合、それを補填(ほてん)する「収入保険制度」を掲げている。
一方、野党では民主党が、米価の大幅下落に対応するため、農業者戸別所得補償制度の法制化を掲げている。民主党は政権を獲得した09年の衆院総選挙で、この政策を目玉に多くの地方票を獲得した。維新の党は、規制改革により「農業の成長産業化」を掲げ、安倍内閣の農業改革の不徹底さを批判している。
ただ民主党の公約は、農地の大規模化を妨げかねない反動的なものだ。これで攻めの農業、本当に競争力のある農業をつくることができるのか。
TPP交渉では、農産物の関税引き下げが求められている。価格競争では圧倒的に不利な日本の農業が厳しい状況に追い込まれることは間違いない。しかし、日本の農業は、そんなに可能性のない夢のない産業なのだろうか。そんなことはない。
規模の大きさでは、米国やオーストラリアの農場にかなわないだろう。しかし、豊富な農業用水、豊かで変化に富んだ自然環境と日本人がこれまで蓄積してきた技術やノウハウ、創意工夫の精神によって、品質の高い、競争力のある農産物を作ることができる。
求められるビジョン
国民や心ある農家が求めているのは、ばらまきではなく、夢とビジョンであり、それを後押しする政策である。
(12月13日付社説)