改憲は4、5回の国民投票で 自民党憲法改正推進本部 船田元 本部長に聞く

 船田元・自民党憲法改正推進本部長(衆議院議員)はこのほど本紙のインタビューに応じ、憲法改正について「いくつかの項目ごとに行っていくことになる」と述べ、4回か5回に分けて改正を目指す考えを示すとともに、9条の改正は周到な準備が必要なため「2回目以降になる」との見通しを語った。
(聞き手=編集局次長・政治部長 早川一郎、社会部次長 岩城喜之)

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ふなだ はじめ 昭和28年、栃木県生まれ。慶応義塾大卒。昭和54年、衆議院初当選。経済企画庁長官、自民党総務会長代理、同党憲法調査会会長などを歴任。現在、同党憲法改正推進本部長。10期目。

  ――今年6月20日に改正国民投票法が施行された。これを受け、憲法審査会では現在、どういう議論を詰めているのか。

 現状では、憲法改正の中身、原案までの議論には至っていない。その一歩手前の国民投票法の年齢問題は前の国会で解決した。そのおかげで、6月20日から名実ともに改正の環境が完全に整った。

 今後は年齢の問題で8党で合意したものがあるので、その合意をもとに、国民投票が18歳に下がるのであれば、選挙権年齢を20歳から18歳に下げるかどうかの議論を憲法審査会の外側でやっていく。近く取りまとめができるだろう。

 一方、憲法審査会のほうでは審査会の進め方や何を議論するのか、各党代表者が意見を述べあう機会があった。

 私は、各党の皆さんがどう憲法改正するのか考え方をまとめて憲法審査会の場や公の場でぜひ発表していただきたいと呼び掛けた。今後は共通部分について深掘りをしながら、1回目の改正に繋(つな)げていきたい。

  ――改正を何回かに分けてやるのか。一番最初はどの部分の改正を目指すか。

 憲法改正はいくつかの項目ごとに行っていくことになる。ただ、ここが変わったが、ここが変わっていないなどバランスが崩れる危険性があるので、全体のバランスを保ちながら、部分的に改正をしていく。

 1回目で何を改正するかについて、海外視察などで各メンバーが関心を持ったことの一つが環境権だった。それと非常事態の設定の仕方だ。あとは財政規律を憲法に書くのか書かないのか。そのあたりから深掘りをしていきたい。

  ――9条はいつの段階での改正とすべきか。

 1回目の改正では、よほど周到な準備をしないと難しい。国民投票で反対多数となった場合にはしばらく浮かび上がれない状況になるので、やはり2回目以降になる。私はできれば2回目にやりたいという気持ちを持っている。

  ――連立を組む公明党は9条の改正に難色を示し、「加憲」という言葉を使っているが、どう合意を目指していくのか。

 集団的自衛権の問題で公明党も項目として理解はしていただいた。そういう状況を考えると、公明党に理解を得ることは難しくないと思う。

 公明党は9条の1項と2項を残し、新たに3項を設けたいとしている。しかし我々は2項が残っている限りは、どんなに拡大解釈しても自衛隊の存在は認められないという読み方ができるので、やはり2項は削除し、自衛権の存在を認めるということをしっかり描くべきだと思っている。

 公明党は2項を残したいという強い意思があるようなので相当難航すると思うが、連立を組んでいる限りは、そこは共通理解として持っていきたい。

 来年の臨時国会で条文審査

 ――全体で何回くらいの改正プランを持っているのか。

 4回か5回だろう。できるだけ回数は少なくしたいが、全体の改正部分を挙げてみると、最低4回は必要だと感じている。それから安倍晋三総理は96条の改正条項を単独で先行するのをあきらめたが、気持ちとしてはいまも持っておられる。党内でもその意見は根強く残っているので、できれば1回目の改正において96条の改正をして、ハードルを下げていく事が必要だ。

 ――今後のスケジュールとして、1回目の改正をいつごろにしたいか。また1回目と2回目の間はどれくらいの期間になると考えているか。

 国民投票となると、内容の重さや複雑さに応じて60日から180日の周知期間が決められる。初回の改正では目いっぱいの半年くらいの周知期間を取らなければならないだろう。慣れてきたら短くすることも可能だが、9条は60日では足りない。

 そうなると、だいたい1年に1回やれるかやれないかだろう。だから4回改正となると最低4年、場合によっては5年くらいかかる。

 1回目のタイミングについては、さまざまなご意見があるが、与野党間でまとまれば、来年の臨時国会あたりで絞り込んだテーマについて条文を出し、その審査までしたい。そして2年後の通常国会の段階で3分の2の賛成を得て、発議という手続きに持っていきたい。

 そうなれば(平成28年の)次期参議院選挙と同時に国民投票をやることになるかもしれない。あるいは参議院選挙の前に発議がなされ、周知期間中に参議院選挙があって、その後に国民投票が来るという流れも考えられる。

 国政選挙も国民投票も1回やると数百億円の費用がかかるため、回数が少ないほうがいい。そういう観点からしても1年に1回くらいしかできないだろう。

 心配なのは、9条など自民党とそれ以外の政党との間で差があるようなものについて、国政選挙と一緒にやると選挙運動と国民投票運動が一緒になってしまうことだ。そうなると、どこまでが選挙運動でどこまでが国民投票運動かとなり、取り締まる方も大変になる。また、間接的ではあるが政党を選び、与党を選ぶ選挙と非常に絡んだ形で9条の問題が扱われることにもなる。

 ――自民党は2年前に「日本国憲法改正草案」を発表した。当時の総裁だった谷垣禎一幹事長の改憲意欲はどうか。

 意欲は十分にある。ただ、自民党の改正草案そのものは野党の時に発表したものだった。野党として思い切ったものにしたところがあるので、少しきつめに強調されたきらいがある。その点については、憲法改正草案そのものを目指して最後までやっていくということではなく、これを一つの目安とし、あとは各党からできる限り多くの合意を得ながら改正していくという気持ちでいる。

 それから、一度に憲法全部を改正するというのは、なかなか難しい。何回かに分けて発議、投票するという考えは谷垣幹事長もよく分かっている。

 ――国会の中で憲法改正に向けて動いていくことも大切だが、国民をいかに啓蒙(けいもう)していくかも重要だ。

 自民党の各都道府県連で憲法研修会を開いてほしいという声があり、今年5月頃に幹事長通達で研修会を開くようお願いした。応じているのは現在20くらいで、どんどん増えている。できれば2年以内に全都道府県で開きたい。

 また各議員の講演会や小選挙区の支部などにも呼ばれている。その研修会はすでに30カ所くらいで行った。今後はそれらを増やしていきたい。

 一般の国民にどうアピールするかについては、これから憲法審査会そのものが動いて、憲法改正の具体的な中身の議論が始まるとマスコミも含めて関心が高まっていくだろう。そういう場で発言をして、憲法改正に向けての見通しや方向性について各党が意見を出し合う中で、徐々に関心が高まっていく事を目指したい。

 ――以前、国会内でのある会合で地方主権を目指すと語っていたが、主権は国に属するものであって、地方に主権を持たせると国家の統治機構としてばらばらになってしまうのではないか。

 実際には地方自治ということであって、それは言い過ぎた部分がある。地方の自主性を尊重して地方再生、地域創生を目指すということで、従来からの分権をやるということだ。