衆院解散論、首相は政策遂行で指導力示せ


 内閣改造から2カ月、召集された臨時国会の会期も半ばであるところに年内の衆院解散論が浮上してきた。

 しかし、国民はすでに与党の自民、公明に衆参で公約実現に十分な圧倒的多数の議席を与えており、国政選挙を毎年行うことを期待しているのではない。残す衆院議員任期は2年もあり、安倍晋三首相は強い指導力をもって政策を遂行していくべきである。

景気回復に全力挙げよ

 首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)が行われた北京で記者会見した11日、年内衆院解散が報道されていることについて、これを打ち消した。だが、政府・与党内では衆院選をめぐる憶測が飛び交っており、各党は選挙準備を急ぐなど浮き足立っている。

 解散の大義名分は、来年10月の消費税率10%への引き上げを延期する判断の是非を問うこととの報道もある。

 消費増税を柱とする「社会保障と税の一体改革」は、2012年6月に当時の与党・民主党と野党の自民、公明両党が合意したものだ。しかし、もともと消費増税法の付則で「経済状況等を総合的に勘案した上で」判断するとしていたのであり、税率引き上げの決定には弾力性を持たせていた。

 17日に発表される経済指標は芳しくないと予想されるが、果たして衆院解散で景気が良くなるのか。

 今、政権の果たすべき役割は2年前の衆院選、1年前の参院選で与党に与えられた安定多数を生かし、首相の経済政策・アベノミクス第3の矢である成長戦略が成果を生むように全力を傾注することである。

 与党内で急浮上した解散論は、野党の選挙準備が整わず優位にあるうちに勝ちに行くという計算が先行しており、党利党略と言うしかない。しかし、現状のままで解散をすれば、経済政策で手詰まり感があることを自ら認めたに等しいと受け止められかねない。

 また、12年11月の臨時国会党首討論における当時の野田佳彦首相と安倍自民党総裁との議論では、国民に消費税増税を課す以上は国会議員自らが「身を切る改革」を行うとして国会議員の定数削減を実行する約束があったはずだ。

 少なくとも比例代表の定数削減などを実現した上で次の選挙を行わなければ、自民・公明の与党側が有権者の咎(とが)めを受けよう。特に内閣改造後は、自民党閣僚の「政治とカネ」の問題が浮上している。これで議員定数に手をつけず、政策遂行を置き去りにした党利党略的な解散論を打ち上げるのでは、昔の自民党に逆戻りの感が否めない。

 万一12月に衆院選を行った場合、国会の一強多弱が公開討論や選挙運動の場での2与党対多野党になり、有権者に向けた野党側の発言量が増えるため、必ずしも自民、公明が優位とは言えないだろう。安倍首相の掲げた「日本を取り戻す」との公約が色あせてしまう。

残る任期で公約実現を

 むしろ、首相は強い意志を持って解散を打ち消して、残る衆院議員任期における公約実現を宣言すべきだ。

(11月13日付社説)