日中首脳会談、意義大きいが懸念も残る


 安倍晋三首相は中国の習近平国家主席と北京の人民大会堂で会談を行った。2012年5月以来、約2年半ぶりの日中首脳会談であり、第2次安倍政権では初めてだ。

 関係改善へ一歩踏み出す

 会談時間はわずか25分間。両首脳は会談前に握手を交わし、安倍首相が話しかけたが、習主席は笑顔を見せず、無言で横を向いてしまうなど友好関係というには程遠いものだった。

 それでも冷え込んでいた日中関係の改善へ向けて一歩踏み出した意義は大きい。これを契機に具体的な信頼関係構築へ再出発するための知恵と努力を両国首脳に求めたい。

 会談前の日中関係は危機的な状況にあった。両首脳は第1次安倍政権当時の06年10月、両国の間で合意した「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻ることで一致した。

 戦略的互恵関係とは、異なった価値観を有する国同士が相違を超えて互恵関係を構築することだ。日本は自由主義国家、中国は共産主義国家だが、それでも平和共存して相互発展するためのものである。

 一方、沖縄県・尖閣諸島や靖国神社などの問題には言及しなかった。中国側が「尖閣」「靖国」に触れなかったのは、これらの問題を持ち出すと「反省していない安倍首相となぜ首脳会談をするのか」との政権批判を招きかねないからだろう。

 首相は「中国の平和的発展は国際社会と日本にとって好機だ。世界第2位、第3位の経済大国として地域と国際社会の平和と発展にともに責任を果たしたい」と述べた。両国が対立するよりも共存共栄する方が東アジアひいては世界の平和と安定に寄与できるという意味であり、適切な提案だ。

 しかし、会談に先立って発表された日中合意文書は妥協の産物で火種の多いものだ。中国側は会談実現に向けて、靖国は日本の軍国主義の象徴であるとして安倍首相が参拝しないと確約することを求めていた。

 明らかに内政干渉だ。合意文書では「靖国」明記が回避され、「政治的困難を克服」という玉虫色の表現に落ち着いた。日本側の粘り勝ちであったが、首相が今後参拝すれば合意文書に「違反」として批判される可能性があろう。

 尖閣問題に関しては「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる意見を有していると認識し……」とある。中国側はかねて尖閣については領有権問題が存在するとの認識を前提に、その棚上げを主張してきたため、こうした表現となった。

 しかし、尖閣が国際法的にも歴史的にも、まぎれもなく日本固有の領土である以上、棚上げなどあり得ない。中国側が合意文書を利用し、領有権問題の存在を日本側が認めたと拡大解釈して宣伝攻勢をかけることが危惧される。適切な対応が求められよう。

 「互恵」に双方が知恵を

 いずれにしても日中両国の原点は「戦略的互恵関係」だ。それを深める具体策は何か。日本の対中投資が落ち込む中、双方が知恵を出し合うべき喫緊の課題だと言える。

(11月12日付社説)