川内原発、再稼働に向け万全の準備を


 鹿児島県の伊藤祐一郎知事と同県議会は、九州電力川内原発(同県薩摩川内市)の再稼働に同意した。

 原子力規制委員会(規制委)は9月、川内1、2号機が新規制基準に適合すると判断したが、工事計画などの審査が続いており、再稼働は年明け以降の見通しだ。伊藤知事の速やかな決断を評価したい。

 避難体制の充実図れ

 東京電力福島第1原発事故を教訓に作られた新規制基準の適合性審査を受けている13原発のうち、立地する県の知事が再稼働に同意したのは初めて。安全審査の申請から地元同意まで1年4カ月を要した。

 伊藤知事は「安全性が約束されるなら、当分の間は原子力発電の活用はやむを得ない」と話し、規制委による川内原発の厳格な審査の継続や、電力事業者の監督・指導の徹底、地域防災体制整備の支援継続などを国に要望。立地市や関係市町への新たな財政支援も求めた。宮沢洋一経済産業相は「事故が起きた場合は国が責任を持ち対処する」と言明している。地元の要望に対し国はどう応えるか。

 例えば、事故が起こった時の避難計画を策定済みの地元の市町が九つある。広範囲な避難体制について充実を図り、他の原発周辺自治体の参考となるモデルを作ることが必要だ。内閣府には避難計画作りを支援する専門部署があり、その働きを期待したい。

 規制委は、巨大噴火の火砕流は川内原発の敷地に及ばないという見解を出している。破滅的な噴火が発生する可能性も「十分小さい」としているが、火山の監視体制を強化すべきだ。国の原子力行政の遂行を図る原子力委員会も、原子力の必要性と安全性について一方的に発言するのでなく、地元住民の声に耳を傾けなければならない。

 一方、政府は原発を再稼働させる理由について、国民にしっかりアピールすべきだ。東日本大震災後、停止した原発を代替する火力発電用の燃料費が膨れ上がり、急激な円安も相まって電力会社の経営を圧迫。電気料金の値上げが相次ぎ、家計や産業界を直撃している。このままでは景気回復の足を引っ張りかねない。

 原発反対派の中には、経済と生命はどちらが大切か、というような極端な問いかけをし再稼働を牽制(けんせい)する勢力がある。しかし、産業社会の混乱は国民生活の隅々まで大きな影響を与え、さまざまなひずみをもたらすことを思えば、決して単純に比較できないものだ。原発をやめ再生エネルギーを使えと主張する人も多いが、電力の安定供給には程遠い。

 化石エネルギーに依存した文明は曲がり角に来て久しい。新しい文明を担う原子力技術を、いかに多面的に活用できるか。このテーマでは国民各層との粘り強い対話を続けていく必要がある。

規制委の速やかな審査を

 今後は、関西電力高浜原発(福井県高浜町)などの再稼働の時期に関心が集まろう。

 規制委も行政機関の一つであり、安全性確保に十分留意しつつ、速やかな審査を行わなければならない。

(11月11日付社説)