冷戦終結25年、求められる拡張主義への対応


 東ドイツ政府が1961年8月、西ベルリンを取り囲むように構築し、東独市民の西ベルリンへの通行を阻止したベルリンの壁。東西冷戦の象徴とされたが、89年11月9日に東独が「旅行の自由化」を発表して崩壊した。壁の崩壊は冷戦の終結、そして自由世界の勝利を示すものだった。

 中露の領土拡大の野心

 きょうで壁崩壊から25年を迎える。だが、冷戦の終結は必ずしも平和を意味するものではなかった。冷戦終結後、イデオロギーに代わって自国権益の拡大を求める偏狭なナショナリズムが台頭している。

 米国の政治学者フランシス・フクヤマ氏は、今年の特色として「ロシアや中国といった強力な非民主主義の専制国家が領土拡大の野心を示した大きな変化の年であり、地政学がものを言った19世紀や20世紀に逆戻りしてしまったかのようだ」と述べている。

 ロシアは、南部クリミア半島を武力併合してウクライナの主権と領土一体性を露骨に侵害した。中国は東シナ海に続いて、周辺諸国との領有権問題を抱える南シナ海での防空識別圏の設定を検討するなど海洋権益の拡大を狙っている。

 政治の世界では「内憂を外患に転じる」というが、内政がうまくいかない時、外部に敵をつくり国民の目をそこへ向けるというのが常套手段だ。その際利用されるのが民族主義である。イデオロギーで国家や民族を一色に染め上げることは容易ではないが、民族主義は生存と自らのアイデンティティー確立のために不可欠であり、政治的利用は容易だ。これが中露両国の対外姿勢にないとは言えない。

 その点で憂慮されるのは、米国が衰退し、内向きに転じていることだ。オバマ米大統領は内政に集中し、国外の問題にあまり関心を持っていない。アフガニスタンとイラクの戦争で多くの米国民は疲れ果てている。大統領は国民の反対を押し切ってまで対外介入政策に出ることは政治的リスクが大き過ぎると考えているようだ。その力の空白を中露が埋めているというのが現状である。

 中露の拡張主義にわれわれはどう対応すべきだろうか。基本的に必要なのは抑止策と関与策の両方である。

 抑止策とは、拡張策を取れば強大な力と対決することになると知らせて思いとどまらせるものだ。わが国の平和と安全は日米安保体制によって守られている。だが現在は、日本の基地提供の代価として米国が日本防衛を約束するという片務的なものだ。米国の孤立主義阻止のためには、もっと双務的なものにすることが求められる。

 次に関与策である。特に中国は膨大な人口を抱え、現在も建設途上の国である。経済・技術面で先進国の日本はさまざまな分野で中国への関与を深め、協力していくことができる。そして平和的な発展の道を選択することが中国の国益につながると知らせることが肝要だ。

 米軍との協力体制強化を

 日本は一方的に米国に依存するのではなく、自衛隊と米軍との協力体制強化を目指さなければならない。

(11月9日付社説)