過去最大規模の経済対策に「なぜ」「効果は」と疑問、批判の各紙社説

衆院選が公示され、第一声を上げる岸田文雄首相(自民党総裁)=19日午前、福島市

衆院選が公示され、第一声を上げる岸田文雄首相(自民党総裁)=19日午前、福島市

規模は二次的な問題
 20日付読売「効果乏しいバラマキでは困る」、朝日「今なぜ過去最大なのか」、産経「政策効果を見極めたのか」、日経「これが賢明な経済対策とは言い難い」、東京「効果は行き渡るのか」、21日付毎日「規模優先の空回りを懸念」、23日付本紙「機を逃さず再生に取り組め」――。

 政府が19日に決定した財政支出55・7兆円、民間支出などを含む事業規模78・9兆円の経済対策についての各紙社説の見出しである。列挙した通り、本紙を除き、厳しい文言が並び、保守系紙も左派系紙も批判のオンパレードである。

 批判の内容は主に、過去最大となった規模の問題と、効果の面からみた中身の問題である。

 まず規模の問題である。各紙が問題にするのは、感染拡大の沈静化で経済活動が正常化しつつある現在、「これほど大規模な対策を講じる必要があるのかどうか」(読売など)という点だ。

 その理由として、読売は「与党が衆院選で掲げた公約の実現に、こだわったのだろう」と解説。朝日も「自民、公明両党が衆院選で公約した現金給付が、十分に検討せぬまま次々に盛り込まれた」ことを一因に挙げ、「なぜ昨年度をもしのぐ巨額の対策が必要なのか。国民が納得できるよう、説明する責任が政府にはある」などと説く。

 確かに尤(もっと)もな感じがするが、規模はあくまで、この対策が何を目的とし、そのためにどんな施策が必要で予算はどのくらいなのか、そのトータルの結果として決まるわけだから、問題にすべきは規模というより、施策の中身ということになろう。

 選挙対策上、インパクトを狙った数字は必要であり、岸田文雄首相も「数十兆円規模」と公言していたから耳目に残りやすいが、規模は本質的でなく二次的な問題である。

 日経は、行動制限の緩和で自律的な回復が見込まれる消費まで、政府が無理に支える必要はなかろう、と指摘したが、7~9月の国内総生産(GDP)で示された消費の落ち込み、弱さは気に掛かるところであり、日経が言うように、突き放していいものなのかどうか。

制限低くし全世帯に

 さて問題の中身だが、これは産経などが指摘するように、「対策を具体化する際には今一度、個々の施策の実効性を見極めて経済再生に資する『質』を担保すべきである」であろう。

 特に問題になっているのは、対策の目玉になっている18歳以下の子供のいる世帯への給付金である。

 この給付金では、自公が交渉で合意し、世帯合算でなく、主たる稼ぎ手の所得制限で960万円以下が対象となった。

 このため、「例えば、それぞれ800万円ずつ稼ぐ共働き世帯は対象に含まれる」(読売)が、「子どもがいなければ、年収100万円台でも支援が受けられない場合がある」(毎日)など、根拠が不明確で妥当性にも疑問符が付くのである。

 経済対策を全体として「岸田文雄政権の経済再生への決意の表れ」と評価した本紙も、「給付金の趣旨がコロナ禍の長期化で苦境にある人の生活を支援するというものであれば、所得制限をもう少し低くした上で、子供の有無に関係なく全ての世帯に支給すべきであろう」と指摘する。

賃上げに触れぬ朝日

 朝日は首相の看板政策「新しい資本主義」に全体の4割に当たる約20兆円を充て、「まずは成長」(重視)ならば、これまで同様、多くの国民は恩恵を実感できないのではないかと批判し、成長と分配を車の両輪として進めるべきだと注文を付けたが、対策で分配の柱になっている「看護、介護、保育、幼児教育分野での賃上げ」に触れないのは妥当な論評ではないだろう。

 この点、日経は「岸田政権はもっと骨太の経済政策を練り直すべきだ」と指摘し、「何より足りないのは成長戦略の踏み込みである」と強調する。図らずも、朝日の誤りを裏付けている。

(床井明男)