外交安保 毅然とした対中姿勢貫けるか
強大な経済・軍事力を背景に覇権拡大を続ける中国とどう向き合うか――。日本が直面する、この最大の外交安保課題に対し、岸田文雄首相は衆院選後のわずかな期間ではあるが、三つの行動で基本姿勢を示した。
首相は投開票日の2日後、0泊2日の強行日程でCOP26が開催されている英国に飛び、ジョンソン首相、オーストラリアのスコット首相、ベトナムのチン首相と対面の首脳会談を行った。また、米国のバイデン大統領と会って「できるだけ早く再会し、じっくり話ができる会談の場を設けよう」ということで一致した。
米国だけでなく、準同盟国の英国、オーストラリア、中国に厳しいベトナムとの連携を示すことで、安倍晋三内閣以来の「自由で開かれたインド太平洋戦略」を基軸とし、中国を牽制(けんせい)していく態勢を固めたわけだ。
次に首相は、外務大臣に「親中派」として知られる林芳正氏を起用した。自民党内から「中国に近すぎる」と、林氏の外相起用に否定的な声が上がったが、林氏は9日、「『知中派』はあってもいい。媚中ではいけない。交渉する上で相手をよく知っているのは知らないよりはいい」と主張。11日には「無用な誤解を避けるため」として、2017年から務めてきた日中友好議員連盟の会長を辞任した。
その一方で首相は、国際的な人権問題を担当する首相補佐官のポストを新設。元防衛相で、中国の人権問題に取り組み、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)の共同議長を務める中谷元氏を起用した。チベットや新彊ウイグル自治区など、中国国内の人権問題に厳しく対応する構えだ。
迅速な首脳外交によって、価値観を同じくする諸国との連携を強めつつ、林外相と中谷補佐官の起用によって中国に硬軟両様のメッセージを送ったわけだ。中国は最大の貿易相手国であり対立一辺倒はあり得ないが、領土や主権などに関わる絶対に譲れない問題では、中国に毅然(きぜん)とした態度を貫けるのかが、今後問われる。
中国との間には、事実上棚上げされている習近平国家主席の国賓来日、中国の人権問題に抗議し「外交ボイコット」を求める声も出ている北京冬季五輪への対応などの問題もある。首相は習主席来日について総裁選で「具体的に日程を考える状況ではない」と明言したが、どのように向き合うか注目したい。
首相が肝いりで推進するのが経済安全保障の確立だ。自民党内で対策をまとめた小林鷹之氏を担当相に起用。日本企業の先端技術などの海外流出を防ぎ、半導体など戦略物資のサプライチェーン(供給網)確保に向け、国際共同開発の推進など具体的な対策を打ち出し、来年末にも改訂される国家安全保障戦略に盛り込む。
尖閣諸島や台湾有事への対応、中国や北朝鮮の核・ミサイルに対する防衛体制の整備も急務だ。安倍元首相が提起した「敵基地攻撃能力」、衆院選で公約した防衛費の増額(GDP比2%以上)も、国民の命と暮らしを守る態勢づくりのために避けて通れない課題だ。
(政治部・川瀬裕也)
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