「憲法改正」国会発議へ手腕問われる首相
岸田文雄首相は就任後1カ月足らずの短期決戦に持ち込んだ衆院選で自民党が単独で絶対安定多数を獲得するなど、国政の主導権を確保する中で自公連立の第2次内閣を発足させた。国民の信任を得た岸田内閣が取り組むべき政権課題を探る。(政治部・亀井玲那)
衆院選の結果、憲法改正に前向きな自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党のいわゆる「改憲勢力」は、公示前の324議席から345議席に躍進。一方で、改憲に反対する共産党と改憲議論を避けてきた立憲民主党は議席を減らしており、改憲に向けた肯定的な変化があったと言える。
「総選挙の結果を踏まえ、党是である憲法改正を進めるため、党内の体制を強化する」
岸田文雄首相は、第101代首相に就任した10日の記者会見でこう表明した。国民的議論を喚起し、国会での精力的な議論を進めるとも語ったが、いずれも慎重な表現にとどめている。
憲法改正には二つの関門がある。衆参各院の本会議で3分の2以上の賛成を得て改正原案を発議し、国民投票で過半数の賛成を得なければならない。いずれも現行憲法制定後、75年間未踏の領域である。慎重な発言の背景にはその難しさへの実感があるのだろう。
憲法改正に正面から挑んだ安倍晋三元首相時代に衆参両院で改憲勢力が初めて3分の2を超えたのは2016年だが、国会発議までの道のりは遠かった。課題は大きく二つある。
第一に、「改憲勢力」と言っても4党にかなりの温度差がある。自民と維新は独自の改憲案を持っており、維新の松井一郎代表は憲法改正国民投票を「来年の参院選と同時に実施すべきだ」と述べるなど、スケジュールまで踏み込んでいる。国民は改憲の論点整理を行い、衆参の憲法審査会で活発に議論しようという立場だ。公明は9条を残す形での「加憲」を唱えており、自民の改憲案(特に9条への自衛隊明記、緊急事態条項)に乗り気ではない。
第二に、こういった各党の違いを調整して改正原案作りをすべき衆参両院の憲法審査会が十分に機能していない。公職選挙法の改正内容を反映させるだけの国民投票法改正案は今年6月に成立したが、18年6月の国会提出から計8国会にわたって継続審議になり、成立まで3年もかかった。
憲法審査会の議論すら否定する共産に加え、野党第1党の立民が国民投票法改正案の審議を延々と引き延ばしたことが最大の要因だが、それを可能にしてきたのは、全員の合意を重視する審査会の運用方式であり、自民の責任も大きい。
そんな自民に批判の声が上がっている。維新の吉村洋文副代表はテレビ番組で、「自民党は憲法改正を党是といいながら、実は一部の保守層のガス抜きのためにやっている。本気で憲法改正をやろうと思っていない」と述べ、自民の姿勢を「やるやる詐欺」と断じた。国民の玉木雄一郎代表も「自民党は本当にやる気があるのかと思うことが多々ある」と述べている。
衆院選で生まれた好機を生かすも殺すも、自民の対応次第だ。党内の体制をどう強化して国会での改憲論議を活性化させるのか。また、国民の理解を深めるためにどのような運動をするのか。自民総裁選の4候補の中で唯一「任期中にめどは付けたい」と明言した首相の手腕が問われる。
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