岸田首相「所信表明演説」の社説で日経以上に経済で注文付けた読売

内閣発足後初、国会で所信表明演説を行う岸田文雄新総裁

具体策の明示求める
 岸田文雄首相が8日に就任後初の所信表明演説を行った。各紙は翌9日付でそろって社説で論評を掲載したが、視点は違ったものの厳しい論調が目立った。

 各紙の見出しを掲げると、次の通りである。読売「成長と分配の具体策が肝心だ」、朝日「信頼と共感 遠い道のり」、毎日「転換への踏み込み足りぬ」、産経「中国問題を正面から語れ」、日経「首相はビジョンの中身にもっと踏みこめ」、東京「首相の覚悟が見えない」、本紙「政策の実現へ覚悟を示せ」――。

 列挙した通り、読売と毎日、日経は経済に、産経と本紙は外交・中国問題に、朝日と東京は「危機の民主主義」に重きを置いて論調を展開。いずれも各紙らしい論評となったが、ここでは特に経済問題を中心に見てみたい。

 意外だったのは、読売が欄の4分の3を経済課題に費やし、日経以上に論じていることだ。残りは外交・安全保障、経済安全保障などである。

 「意外」と言ったが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、緊急事態宣言が幾度となく発令され、経済活動が停止を余儀なくされたことを思えば、その再生などに新政権が重点的に取り組むのは当然であり、ましてや首相が「新しい資本主義」を提唱しているとあっては理解できる。

 この新しい資本主義について、読売は「中間層を広げるため、成長と分配を両輪で進めるという方向性は妥当である」と評価し、「肝心の具体策を明らかにし、実現に向けて動き出してほしい」と注文を付けた。

 岸田首相が新しい資本主義を提唱した背景には、新自由主義的とされる小泉政権以来の規制改革路線が所得格差を広げ、安倍政権のアベノミクスも「成長と分配の好循環」を掲げながらも分配が十分でなかったという認識がある。

 その点を左派系紙は成長重視のアベノミクスの転換が必要と批判し、「転換への意気込みが伝わらなかった」(毎日)としたが、成長重視を転換したなら、増税でしか税収アップが図れず(必ずしもアップするとは限らない)、旧民主党政権時代の低迷状態に甘んじなければならないし、コロナ後の経済再生という課題にも十分に取り組むことは不可能であろう。

分配重視の姿勢評価

 この点、読売が首相の「成長も分配も実現するため政策を総動員する」との説明に、「経済成長を重視するアベノミクスを基本的に継承しつつ、さらに分配に力を入れる姿勢を鮮明にした」「働く人の所得を増やし、消費や投資の拡大につなげる方針を示したのは理解できる」としたのは妥当であり、「実効性のある施策を明示し、目に見える成果を出すことが重要だ」と強調したのは尤(もっと)もである。

 日経は、首相が示した経済対策や成長戦略に対し、「一方で、財源や規制改革への踏み込み不足は否めない」としたが、自民党総裁就任から演説まで9日という短期間だったため、政策全般にわたり、総裁選から訴えてきた施策をただ羅列した感もある、として批判の傍ら同情的でもある。同紙の指摘通り、「首相は自ら掲げたビジョンの中身をより明確にして国民に信を問うのが肝要だ」ろう。

安保に言及せぬ毎・東

 それにしても、「民主主義の危機」に言及し、「政治とカネ」や公文書改竄(かいざん)・廃棄などの問題に「演説で一切触れなかった」とし、「信頼と共感」を得る政治を目指す「本気度が疑われる」と批判する毎日や、危機の「克服に向けた覚悟は読み取れない」とする東京には、外交・安全保障に関する言及がない。

 この点、産経は「中国の覇権主義的行動を問題視する言葉を発しなかった」点を「物足りない」とし、本紙も中国公船による沖縄県・尖閣諸島沖の領海侵犯や台湾海峡有事については一言も触れておらず、これで「毅然(きぜん)とした外交を進める」ことができるのかとするほどなのに、毎日や東京に国の存立に関わるこうした危機意識がないのはどういうことであろう。

(床井明男)