原発処理水放出、透明性確保と風評被害対策を


 政府は東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水について、2年後をめどに希釈した処理水を海洋放出する方針を決定した。国際原子力機関(IAEA)が協力を表明する一方、地元関係者の不安や周辺国からの批判もあり、透明性の確保と風評被害防止に向け万全を尽くすべきだ。

タンクは来秋で満杯に

 政府の決定を受けてIAEAは、放射性物質のモニタリングなど技術協力の用意があると声明を出した。東日本大震災で甚大な被害をもたらした巨大地震、大津波と共に国際社会に大きな衝撃となった原発事故だけに、IAEAのモニタリングによる透明性のある監視は不可欠と言える。

 福島第1原発事故は炉心溶融(メルトダウン)を起こし、冷却に用いた水から多くの放射性物質を除去した処理水が120万㌧以上の量となってタンクに貯められている。タンクの貯蔵量は137万㌧で来年秋に限界に達するため、新たな対策がかねて課題になっていた。

 決定まで時間を要したのは反原発運動と風評への懸念のためだ。原発事故が発生した2011年の震災当時、民主党などが連立した菅直人政権は「原発ゼロ」政策を掲げて全国の稼働中の原発を止めるなど、急を要する対策の遅れの不手際への批判を原発の存在自体にすり替え、反原発運動の機運を高めた。

 福島県産の農産物が放射能検査で安全基準にあっても買われなくなるなど風評被害も広がり、福島第1原発周辺の崩壊した建築物などのがれき、処理水の行き場をめぐる検討が、安倍晋三政権に政権交代した後も難航した。このため、政府は決定を延々と先送りしてきた。

 一昨年9月には、当時の原田義昭環境相が記者会見で「(海洋)放出するほかに選択肢はない」と貯蔵タンクが満杯になるのを見据えて自説を述べ、波紋を呼んだ。安倍内閣を引き継いだ菅義偉内閣による今回の決定の先鞭を付けたと言えよう。

 汚染水に含まれる放射性物質を除染する多核種除去設備(ALPS)では、62の物質を取り除くことができるが、残るのがトリチウムだ。希釈することによって科学的には飲料水と同じ水準にすることが可能であり、世界の原発でトリチウムを含む処理水の海洋放出は一般に行われていることはIAEAの声明でも指摘された。

 菅首相は「処理水処分は廃炉に避けて通れない課題」と理解を求めた。IAEAによる放射性物質のモニタリングのほか、計画実行面での安全性や透明性の評価が国際社会に対しても国内に向けても必要になる。厳重なモニタリングにより、福島県産の農産物や水産物に対する各国の禁輸措置は徐々に解除されてきた。

国際社会の信頼回復を

 だが、中国、韓国、台湾など周辺国・地域の警戒心は強く、規制を解いていない。特に、今回の海洋放出方針決定に中韓は強く反対した。人権批判を浴びる中国、反日政策で支持を集めようとする韓国文在寅政権の政治的思惑もあろうが、科学的透明性に徹した努力で国際社会の信頼を回復してほしい。