北方領土 交渉の好機を見落とすな
2020年7月にロシア憲法が改正され、24年に任期が切れるプーチン大統領が最大36年まで大統領を続けることが可能となった。しかし、プーチン氏の長期支配に国民の反発が高まっている。新型コロナウイルスの感染者数は世界で4番目と多く、経済は停滞が続いたまま。さらに、反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件や逮捕拘束に抗議し、釈放を求めるデモも広がりを見せた。
揺らぐプーチン体制
プーチン体制の動揺はロシア国内にとどまらない。ロシアが盟主を自任する旧ソ連圏で政変や紛争が相次ぎ、影響力低下が目立っている。20年8月、隣国のベラルーシでは26年間大統領職にあるルカシェンコ氏が6選を果たしたが、選挙の不正に抗議し大規模な反政府デモが相次ぎ、政情不安が続いている。
9月にはトルコの支援を受けたアゼルバイジャンがロシアの同盟国アルメニアとナゴルノカラバフで軍事衝突し、5000人以上の死者が出た。ナゴルノカラバフはアゼルバイジャンの自治州だが、多数派のアルメニア系住民がアルメニアへの帰属を求めて紛争が繰り返されている。11月にロシアの仲介で停戦が実現し、プーチン氏は何とかメンツを保ったが、ロシアは自らの勢力圏内でトルコの影響力拡大を許す結果となった。
アルメニアでは占領地返還に合意したパシニャン首相への反発が強まり、先月25日に軍が首相ら全閣僚の退陣を要求。首相は参謀総長らの解任を宣言したが、先の展開は予断を許さない。
さらに昨年11月にはモルドバ大統領選で、親露派の現職大統領が親欧米派の前首相に敗北を喫した。プーチン氏は中国との連携やワクチン外交で影響力の維持に腐心するが、ナワ リヌイ事件で欧州連合(EU)との関係改善は望めず、バイデン政権誕生で対米関係も厳しくなると予想される。
プーチン氏を取り巻くこうした内外の厳しい状況が、北方領土交渉にも影を落としている。ロシア改正憲法では、領土割譲を禁止した条項が追記された。プーチン氏は先月の国内メディアとの会談で「憲法に反することはしない」と述べ、北方領土返還に否定的な発言をした。マリア・ザハロワ外務省報道官も改正憲法を根拠に、北方領土交渉は「いかなる形でも議論さえできない」との認識を示した。
しかし、領土交渉に対するロシアの硬い姿勢は、体制の引き締めと国内世論へのアピールが目的であり、政権の強さではなく、逆に弱さの表れである。プーチン体制が永久に続くことはなく、最近の動きはその終わりの始まりと言えよう。わが国はロシア側の発言に動揺、失望し、領土の返還を断念することがあってはならない。
周辺国の情勢にも注意を
領土問題に対するロシアの姿勢は、内政や国際情勢、それに指導者の交代などに左右されてきた。わが国は諦観に陥ることなく、引き続き粘り強く領土返還を訴え続けるべきである。そして、巡り来る交渉の好機を見落とさぬよう、ポスト・プーチンを視野に入れ、ロシア国内にとどまらず周辺諸国の情勢にも注意深く目を配る必要がある。