核禁条約発効、日本は核抑止力の維持
核兵器の使用や保有など幅広い活動を違法化する核兵器禁止条約が発効した。だが非加盟国には効力が及ばず、核兵器保有国や日本をはじめ核抑止力に頼る国の加盟も見通せないため、実効性が疑問視されている。
北朝鮮や中国の核の脅威が増大する中、日本は引き続き米国の「核の傘」など核抑止力の維持に努めるべきだ。
首相「署名する考えない」
菅義偉首相は核禁条約について「署名する考えはない」と明言。発効後1年以内に開かれる締約国会議に対しても「オブザーバー参加も含め、関与については慎重に見極める必要がある」との立場を示した。
核禁条約は核兵器の使用や保有のほか、核による威嚇も禁じている。「威嚇」と「抑止」は表裏一体で、北朝鮮の核ミサイルという現実を前に、米国の核抑止力に依存する日本には受け入れ難い内容だ。
北朝鮮は既に核実験を6回も強行したほか、各種ミサイルの発射実験も繰り返している。米国との非核化交渉の最中にも、密(ひそ)かに核・ミサイル開発を続けてきた。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が昨年6月に発表した推計によると、北朝鮮の核弾頭保有数は前年の推定20~30発から30~40発になった。金正恩総書記が朝鮮労働党大会で核戦力の強化に言及するなど、北朝鮮の核の脅威は高まっている。
中国の核兵器増強も続いている。SIPRIの推計によれば、中国の保有数は前年比30発増の320発に上っている。中国は「核関連設備の重大な近代化」を進めているという。
一方、米国防総省は昨年9月に公表した報告書で、中国の保有数を「200発台前半」と推計し、今後10年間で倍増するとの見方を示した。核弾頭が搭載可能な空中発射弾道ミサイル(ALBM)を開発し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の能力向上を図っているとも指摘している。
日本を取り巻く安全保障環境が悪化する中、日本が核禁条約に署名しなかったのは当然だ。日本に求められるのは、いかに核抑止力を維持、向上させるかである。
かつて自民党の石破茂元幹事長は、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則のうち「持ち込ませず」の見直しを促し、核兵器受け入れ国が使用に際して意思決定に加わるニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)を提案したことがある。北朝鮮や中国の核の脅威が増大する現状を踏まえれば、政府としても前向きに検討すべきだ。
中国の戦略に対抗を
米国のバイデン新政権は、2月に期限が切れる米国とロシアの新戦略兵器削減条約(新START)を5年間延長する意向を示している。
ただ、核戦力を増大させる中国がこうした枠組みに参加しなければ意味がない。トランプ前政権は、多国間の核軍縮体制構築を目指し、中国に協議参加を求めてきたが、中国は拒否している。中国の核戦略にどのように対抗するかが問われる。