五輪まで半年、安全な大会実現へ準備進めよ
1年延期された東京五輪の開催まで残り半年を切った。
菅義偉首相は「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」として、開催を実現すると繰り返し強調してきた。中止論に振り回されることなく、安全な大会の実現に向けて準備を進めるべきだ。
ワクチンを前提とせず
日本では今年に入って11都府県に緊急事態宣言が発令されるなど、コロナ収束の兆しは見えない。このため、東京五輪開催を危ぶむ声が出ている。国内の報道各社の世論調査でも、大会開催より中止・延期論が上回っている。
英紙タイムズ(電子版)は、日本政府は非公式ながら中止せざるを得ないと結論付け、2032年開催を目指す方向で動いているなどと報道。坂井学官房副長官は「そのような事実はない」と反論した。
一方、五輪開催を支持する意見もある。台湾の蔡英文総統は動画メッセージで「日本が団結によってこの試練を乗り越え、半世紀ぶりの東京五輪を再び実現するよう祝福する」とエールを送った。こうした期待にぜひとも応えていきたい。
首相は今国会の施政方針演説で「世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進める」と述べた。コロナ禍によって意気消沈する人々を、スポーツの力によって励ますことは、五輪開催国の大きな使命である。まずは、国内の感染抑制に全力を挙げなければならない。
各国のワクチン接種の遅れも開催への不安を高めているようだ。首相は国会答弁で「ワクチンを前提としなくても安全・安心な大会を開催できるよう準備を進めている」と訴えた。五輪期間中の選手に関しては、定期的な検査の実施や専用車の使用、移動の制限などを徹底する必要がある。
今月はハンドボールの世界選手権や柔道の世界大会などが開かれている。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「ワクチンがなくても安心、安全な方法で開催されていることは非常に励まされる」と述べ、東京五輪実現に前向きな姿勢を示した。
観客の安全確保も大きな課題となっている。政府は外国人観客に対し、入国前に健康管理アプリのダウンロードを求めるほか、陰性証明の取得、民間医療保険への加入などを義務付ける方向だ。健康アプリについては、観客同士の感染を防ぐため、日本人観客でもダウンロードの義務化を検討している。
首相は五輪を経済再生の起爆剤と位置付けて「観客入り開催」を大前提としているが、無観客や観客数の上限を設けての開催を求める意見も出ている。政府は今春、観客の受け入れの在り方を最終判断する。3月25日の聖火リレー開始までに、緊急事態宣言を解除できるかが焦点となりそうだ。
万難排し復興発信を
首相が「東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と述べたように、東京五輪は「復興五輪」でもある。今年は震災から10年の節目の年であり、その意味でも万難を排して大会を実現したい。