敵基地攻撃能力 保有決定先送りの余裕はない
政府はミサイル防衛に関する閣議決定を行った。敵基地攻撃能力の保有をめぐっては「抑止力の強化について引き続き政府において検討を行う」との表現にとどめ、議論を先送りした。
しかし、先送りするだけの余裕があるのか。北朝鮮や中国は核・ミサイル開発を急速に進めている。日本の平和と安全を守るため、敵基地攻撃能力の保有を早急に決定すべきだ。
陸自ミサイルの射程延伸
ミサイル防衛に関して議論が高まったのは、6月に陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入計画が停止されたためだ。安全保障戦略の見直しが急務となる中、敵基地攻撃能力を持つことも検討対象となった。
当時の安倍晋三首相は退任直前の9月、新たな方針について「今年末までにあるべき方策を示す」とする談話を発表。この中で「迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」と提起し、敵基地攻撃能力を保有すべきだとの意向をにじませた。
敵基地攻撃能力は他国の領域内にある弾道ミサイルなどの発射拠点を破壊する能力で、発射場所を見つける偵察力、敵の反撃を妨害する能力も含まれる。政府はほかに手段がない場合、敵基地攻撃は許容されるとの立場を取っている。
北朝鮮は潜水艦発射式や複雑な軌道を描く弾道ミサイルの開発を進め、中国も音速の5倍以上の極超音速滑空弾の開発を推進している。こうした脅威に対抗するため、日本はミサイル迎撃能力を高めるだけでなく、敵基地攻撃能力を保有することが急がれる。
閣議では、敵の攻撃圏外から対処できる「スタンド・オフ・ミサイル」の国産開発が決定された。陸上自衛隊のミサイル「12式地対艦誘導弾(SSM)」の射程を5年かけて大幅に広げ、陸海空のいずれからも発射できるよう計画を変更する。
現行のSSMの射程は百数十㌔とされ、これが数百㌔に伸びる見通しだ。車両に載せて地上から艦艇を狙う運用を想定してきたが、今後は艦艇や航空機への搭載を可能にし、対地上攻撃にも応用できるようにする。
こうすれば北朝鮮全域や中国沿岸部にも到達させられるようになり、敵基地攻撃への転用も可能となる。ただ政府が敵基地攻撃能力を保有する方針を明示しなければ、いざという時に適切に運用できるか不安が残る。
閣議では併せて、イージス・アショアに替わる「イージス・システム搭載艦」2隻の新造を決めた。巡航ミサイルに対応できる迎撃ミサイル「SM6」も備える構想だ。陸上イージスは陸自が運用する方針だったが、新造艦の運用は海自が中心となる。長期間にわたって洋上で勤務する乗組員を確保するため、艦内の勤務・生活環境の改善につながる設計、処遇などを進めてほしい。
「専守防衛」は見直しを
戦後日本は、相手から攻撃を受けた後に防衛力を行使する「専守防衛」原則に徹してきた。
だが、これで平和を守れないことは明らかだ。専守防衛は見直すべきである。