原発処理水 早急に海洋放出の決定を


 東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含んだ処理水について、政府はいまだに海洋放出する方針を決定していない。

 処理水が保管されている原発敷地内のタンクは、2022年秋にも満杯になる。早急に決定する必要がある。

 依然強い国民の不安

 処理水は、福島第1原発の原子炉を冷やす冷却水や建屋に流れ込んだ地下水、雨水から多くの放射性物質を取り除く処理をした後に残る水のことだ。ただ、トリチウムは現在の技術では除去できない。

 東電は処理水保管のために137万㌧分のタンクを確保しているが、今年11月19日時点で既に約123・7万㌧が貯蔵されている。敷地内では廃炉作業に必要な施設の建設も進んでおり、新たにタンクを設置する場所は限られる。方針決定から処分までには2年程度の準備期間が必要とされ、これ以上決定を先送りすることはできない。

 だが福島県を訪れ、東日本大震災や福島第1原発事故からの復興状況を視察した加藤勝信官房長官は、処理水について「今後、適切なタイミングで政府として責任を持って処分方針を決めていきたい」と従来の説明を繰り返した。

 本来であれば、海洋放出の方針は10月末にも決定されるはずだった。決定を断念したのは、公募意見で安全性に懸念を示す声が7割に上るなど国民の不安が依然強く、関係省庁でさらに時間をかけて検討する必要があると判断したためだ。

 しかし経済産業省の推計結果によれば、海洋放出による放射線の影響は最大で0・62マイクロシーベルトにすぎない。日本国内では、宇宙線や食物から平均で年間2100マイクロシーベルトの自然放射線を受けており、経産省は「比較すると十分に小さい」としている。

 トリチウムは摂取しても水と同様に排出され、体に影響を及ぼすことはない。海洋放出は海外の原発でも行われている方法だ。政府はこうした事実を丁寧に説明し、国民の不安を取り除かなければならない。

 風評被害への懸念も根強い。全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は「海洋放出に絶対反対」と強い反対姿勢を示している。岸氏は政府の意見聴取に対し、海洋放出が行われた場合、風評被害の払拭(ふっしょく)に取り組んできた全国の漁業者の努力が無駄になって「日本の漁業の将来に壊滅的な影響を与える」と訴えた。

 一方、東京電力ホールディングスの大倉誠常務執行役(福島復興本社代表)は、放出が理由で地元産農水産物の販売が減少した場合は「適切に賠償する」と明言した。政府と協力し、風評被害の防止対策にも取り組むべきだ。

 問われる首相の指導力

 菅義偉首相は9月、福島第1原発などを視察した際に「福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本再生なし」と強調した。

 だが処理水の海洋放出を決定できなければ、事故で溶け落ちた核燃料を取り出す作業などにも支障を来しかねない。こうなれば復興も進まないだろう。首相の指導力が問われている。