G20サミット 全世界にワクチンの恩恵を


 日米中など20カ国・地域(G20)は、テレビ会議形式で開いた首脳会議(サミット)で首脳宣言を採択した。

 宣言は、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の安価で公平な分配を確約した。全世界にワクチンを早急に行き渡らせるようにすべきだ。

「特許権プール」を支持

 日本は、開発途上国が少ない費用負担でワクチンの恩恵を受けられるようにするため、国際機関が特許権を一元的に管理する「特許権プール」の創設を提言。宣言は創設について「完全に支持」すると表明した。

 米製薬大手ファイザーは、開発中のワクチンの緊急使用許可を米当局に申請。米国民への接種が12月中に始まるとも言われている。英製薬大手アストラゼネカも、英オックスフォード大と共同開発中のワクチンが、最終段階の臨床試験(治験)で平均70%の効果を示したと発表するなど、ワクチン開発は大詰めを迎えている。

 ただ米デューク大の調査によると、世界各国が計約68億回分のワクチンを予約済みだが、このうち37億回分は日米英や欧州連合(EU)などの先進国が占めている。先進国がワクチンを囲い込まないかどうか、途上国からは不安の声も出ている。

 マクロン仏大統領が「裕福な者だけがウイルスから身を守るという世界は避けなければならない」と述べ、途上国への供給の必要性を強調したのは当然である。医療体制が弱い途上国にワクチンを行き渡らせることは、感染の再拡大抑制にもつながる。全ての人たちが早急にワクチンを受けられるよう、特許権プール創設を提案した日本は、国際協力を主導してほしい。

 一方、G20サミットで他国へのワクチン提供に意欲を示した中国やロシアに対しては、ワクチンを通じて影響力拡大を狙っているとの見方も出ている。ワクチンを覇権争いに結び付けることなどあってはなるまい。

 首脳宣言では、雇用・所得を守り世界経済の回復を支援するため「全ての利用可能な政策手段を引き続き用いる」ことを確認。菅義偉首相は地球温暖化対策について「50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指す」と述べ、環境投資を起爆剤として世界経済の回復につなげる決意を表明した。

 首相は次世代太陽電池や水素などの新技術に触れて「革新的なイノベーションがカギだ」と訴えた。ただ温室ガスの排出ゼロを宣言するのであれば、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない原発の活用にも言及してほしかった。

日本は危機収束に貢献を

 首脳宣言では、東京五輪・パラリンピックについて「新型コロナに打ち勝つ世界の結束の証し」として開催する日本の決意を称賛した。五輪をめぐっては、このほど来日した国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も、来夏開催を目指す姿勢を改めて示した。

 五輪実現のためにも、ワクチンの早急で公平な分配は重要課題である。世界的危機の収束に日本は大きく貢献しなければならない。