菅新政権外交 日米軸に中国の覇権に対処を


 菅義偉新内閣が発足し、国際社会から外交・安全保障の舵(かじ)取りについて注目されている。

 「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」「積極的平和主義」を掲げた安倍晋三前首相の路線を継承し、アジア太平洋地域の民主主義圏をさらに強く発展させていくことを期待したい。

対中姿勢が試金石に

 菅首相は就任会見で外交・安保政策について、わが国周辺の厳しい国際環境を指摘しながら「機能する日米同盟を基軸とした政策を展開していく」と強調し、「国益を守り抜くために自由で開かれたインド太平洋を戦略的に推進するとともに、中国、ロシアを含む近隣諸国と安定的な関係を築きたい」と述べた。

 また、首相は「戦後外交の総決算を目指し、特に拉致問題の解決に全力で取り組む」と表明した。北朝鮮などの主権・人権侵害が二度と起こらないように毅然(きぜん)とした対応を取り得る国を目指すべきだ。

 安倍氏の外交成果は、憲法解釈変更に基づき集団的自衛権の一部行使を容認する安全保障関連法を成立させたことによって、日米同盟をさらに強化したことだ。「自由で開かれたインド太平洋」構想を米国と一体となって進め、自衛隊との合同演習、共同訓練などの連携はオーストラリア、インド、英国などとも深まった。

 菅政権にとっても、中国にどのような姿勢を示すのかが外交的試金石となろう。4月に習近平国家主席が国賓訪問する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で延期になった。これまで自民党と公明党は日中与党交流協議会で中国共産党と定期交流し、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」への協力プロジェクトを検討するよう経済界と一体となって政府に影響を与えてきた。

 このような露払いによって習氏訪日の段取りを付けたとはいえ、今年に入って中国に対する国際世論は厳しさを増している。米国のポンペオ国務長官は歴代米政権の対中関与政策を誤りとする外交転換を宣言した。

 中国は米国などからの情報・技術窃盗によって強化した先端技術・軍事力を背景に、覇権主義的な膨張路線を露骨に展開している。

 香港、新疆ウイグル、内モンゴル、チベットにおける人権弾圧のほか、台湾への軍事的威嚇、沖縄県・尖閣諸島沖の領海を脅かす公船の侵入、南シナ海でのベトナム、フィリピン、インドネシアとの係争地域の実効支配、インドやブータン国境での衝突など看過できない「力による現状変更」を続けている。

 こうした中国の動きを放置したまま、対中関係を進めるわけにはいかない。新型コロナ感染の発生地にもかかわらず、中国は経済回復を強調して国際非難をかわすカードにしようとしている。

 欧州連合(EU)は習氏とのオンライン会議で香港やウイグルの問題を批判した。わが国も歩調を合わせるべきだ。

台湾の現状維持へ支援を

 また、中国は菅内閣発足に当たって「一つの中国」原則で注文を付けてきたが、民主主義が浸透した台湾の現状を維持し守るよう支援する必要がある。