菅新内閣発足 成果焦らず徐々に「カラー」を
自民党の菅義偉総裁が第99代の首相に就任し、自民、公明両党連立による新内閣を発足させた。菅首相は「国民のために働く内閣」と銘打ち、「安倍路線の継承」を強調した。当面は新型コロナウイルスの感染収束と経済の立て直しが最優先課題となるが、外交・安全保障など早急に対処しなければならない課題も多い。成果を焦らず、徐々に「菅カラー」を出せるよう政権運営を心掛けるべきである。
規制改革に必要な突破力
新内閣は、麻生太郎副総理兼財務相ら8人が再任、3人を横滑りさせて担当を変更し、過去に閣僚を経験した4人が再入閣した。「デジタル庁」創設など行政改革への意欲を示しデジタル担当相のポストを新設した。
その中で菅首相が政権の屋台骨の官房長官に起用したのが加藤勝信氏である。安定した答弁や実務能力に定評があり、正副官房長官として安倍晋三前首相を支えてきた間柄だ。安倍路線を継承し発展させていく上では適任と言えよう。
菅首相が「政権のど真ん中に置く」と位置付けたのが規制改革だ。河野太郎行政改革・規制改革担当相は防衛相の時、筋さえ通っていればはっきりものを言い返す強面ぶりを見せた。2度目の行革担当相であり、党の行革推進本部長の経験もある。
「役所の縦割り、既得権益、悪(あ)しき前例主義の打破」という菅首相のスローガンを実行するには河野氏の突破力が不可欠と判断したのだろう。ここに菅首相の本気度がうかがえる。菅、加藤、河野のラインで霞が関という大きな壁と戦う姿を見せながら国民の信頼と支持を得るのが戦略だろう。
一方、外相に茂木敏充氏を再任させた。路線の継承という点では安心感があるが、安倍氏の方針があっての外交だった。「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交は私にはできない」と語る菅首相が、トランプ米大統領や習近平中国国家主席らと渡り合えるのか。
9月下旬の国連総会はビデオ形式の演説となるが、11月の20カ国・地域(G20)首脳会議では対面外交の初舞台を迎える。外交戦略を明確にし、自信を持って外交哲学と基本方針を自らの言葉でアピールしなければならない。
疑問なのは、首相自身が深く関わってきたはずの北朝鮮による邦人拉致問題の解決に向けた気概があるのかだ。「不退転の決意で自ら先頭に立ち取り組む」と述べた。
しかし、自民党と公明党の与党党首会談で署名された連立政権合意文書には、それまであった「拉致問題の解決」が抜け落ちている。新型コロナ対策で「国民の命と健康を守る」のは当然だが、拉致被害者の「命」を忘れてはならない。
総裁任期は残り1年しかない。自民党の一部には新政権発足による「ご祝儀解散」を求める声もある。安倍退陣表明で内閣支持率が上がり、いま選挙をすれば勝てるかもしれないとの思いもあるに違いない。
中長期的ビジョン練れ
肝要なのは、着実に実績を積み上げることに全力を挙げることだ。目に見える改革を断行し、中長期的ビジョンを練りつつ政権の安定化を図ることである。