菅新内閣の課題 本格政権へ必要な実績作り

継承と前進 菅新内閣の課題(上)

 菅義偉首相が率いる新内閣が発足した。歴代最長の安倍晋三政権の取り組みを引き継ぎ、前に進める「国民のために働く内閣」を標榜(ひょうぼう)しているが、コロナ渦の真っ只中(ただなか)で多くの課題が待ち構えている。

 「まさに身の引き締まる思いだ。国民のために働く内閣をスタートさせ、しっかりとした成果を挙げて国民の期待に応えたい」

 内閣発足の翌朝、菅首相は首相官邸の主人となった心境をこう語った。官房長官として7年9カ月近く過ごした官邸は既に「勝手知ったるわが家」であるはずだが、そのトップに立つことの緊張感は格別だということだ。

 新型コロナ禍の只中、安倍前首相の辞任に際して任期1年で“緊急”登板した菅首相だが、最初の仕事の自民党役員人事と閣僚人事を通して着実に「菅カラー」を打ち出している。

 党人事では、総裁選で支持表明した5派閥から4役と国対委員長を抜擢(ばってき)する「超均衡」人事を断行した。「論功行賞」との批判もあるが、その内容を見ると、勝利の流れを作った二階俊博幹事長(二階派)と森山裕国対委員長(石原派)を再任し、当選同期の佐藤勉総務会長(麻生派)、下村博文政調会長(細田派)、山口泰明選対委員長(竹下派)の3人を加えて、誰とでも通じることができる布陣を敷いた。

 閣僚人事では、麻生太郎副総理兼財務相や茂木敏充外相など8人を再任し、横滑り3人、再入閣4人で初入閣は5人にとどまり新味には欠ける。しかし、「最重点課題」とするコロナ対策を担当する厚生労働相に田村憲久元厚労相、看板政策の「デジタル庁新設」に取り組むデジタル改革担当相に平井卓也元IT政策担当相と、いずれも党で最高の専門家を配置。また、「政権のど真ん中に置く」と表明した行革・規制改革の担当相には同じ神奈川県選出で親交もあり発信力のある河野太郎前防衛相を据えて、目玉政策の推進に焦点を当てた。

 首相の改革意欲を反映するように、河野行革担当相は国会の閣僚席(ひな壇)の席次で、ナンバー2とされる演壇右側に座る。河野氏は17日、役所の規制や縦割りの弊害情報を受け付ける「行政改革目安箱」(縦割り110番)を開設したが、これは首相が前日の任命時に指示したものだ。首相はまた、17日に平井デジタル改革相や田村厚労相を官邸に呼んで、改革実行に拍車を掛けた。

 首相は議員秘書から始まって、誰よりも働いて「菅がいないと回らない」と言われるほどの結果を残して、市議、国会議員、首相へと上り詰めた「たたき上げ」だ。無派閥で党内基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中、1年間に誰もが認める「結果」を出さなければ本格政権は望めないことを誰よりも知っている。解散総選挙の時期も、そのような観点から決めていくのだろう。

 「世の中には国民感覚から懸け離れた『当たり前でないこと』が残っている。それらを見逃さず、現場の声に耳を傾け、大胆に実行していく」

 このように国民生活に根差した改革を政権運営の中心に据える菅氏の手法は、歴史的、世界的な視点で政策を推進してきた安倍氏の政治手法と大きな対照をなしている。安倍氏がやり残した憲法改正について、首相がどのように取り組んでいくのか。本格政権に必要な、目指す国家像はいつ提示されるのか注目したい。

(武田滋樹)