自民総裁選告示 国家像鮮明にして覚悟示せ
安倍晋三総裁の後継を決める自民党の総裁選が告示され、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長の3人が立候補した。新型コロナウイルスへの対応や経済の立て直し、外交・安全保障、地方の活性化などをめぐる論戦が本格化する。ただ、政策論争のレベルにとどまってはいけない。
理念が薄く迫力不足
自民党の総裁は、一政党の党首であるだけでなく、国家をリードする首相であり、国際社会においては日本の顔となる。重要政策を具体的に提示するとともに、目指すべき国家像を鮮明にし、その実現に向けた道筋と覚悟を示すべきである。
安倍首相が2006年、総裁選に初出馬した際に「美しい国、日本。」と題する政権構想を発表した。国のあるべき姿として「文化、伝統、自然、歴史を大切にする国」「自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国」「未来へ向かって成長するエネルギーを持ち続ける国」「世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのある国」を指摘。すべての政策はこの理念の下に策定され、「美しい国づくり」プロジェクトが推進された。
3候補に明確に語ってほしいのは、国づくりの青写真だ。立会演説会、共同記者会見では国家観や理念がほとんど語られず迫力不足だった。憲法前文で「国家の名誉にかけ」達成することを誓う「崇高な理想」とは何かを示してほしい。そこから国のあるべき姿が見えてこよう。
骨太の重要課題については、もっと具体策を競ってもらいたい。安倍首相は憲法改正を「自分の手で実現する」と表明していた。菅、岸田両氏は党が提示した4項目を憲法審査会で議論していく考えを述べたが、安倍首相のできなかった議論をどう進めていくのか。掛け声だけでは物足りない。また、石破氏は「平成24年草案に立ち返るべき」と主張した。筋論としては分かるが、自民党内をどう説得するのかを問いたい。
深刻な米中新冷戦の中、わが国の針路を早急に決めなければならない。米国との同盟はわが国の外交・安全保障の基軸である。一方、米国が対決姿勢を明確にした共産中国は、南シナ海で覇権主義を露わにし、沖縄県・尖閣諸島沖の領海侵犯を繰り返し、ウイグル、チベット、内モンゴル、香港などで人権抑圧や文化抹殺策を進行中だ。
菅、岸田両氏は、安倍政権で外交の重要案件に関与してきたことをアピールしたが、新型コロナ対応で各国が苦慮する間隙を突いて攻勢に出る中国との距離をどう取るのか。北朝鮮による邦人拉致や核・ミサイル問題もある。新型コロナによって打撃を受けた経済をどう再建するのか。社会保障、地方創生、教育への取り組みも重要である。
国難に対峙する資質を
安倍首相の突然の辞任表明を受けての総裁選であり、総裁任期が1年しかないため、とりあえず安倍路線を継承し政治空白を避けるとか、来年の総裁選を狙うといった思いを抱いているようではだめだ。
新総裁には、理想と覚悟と具体策をもって国難に対峙(たいじ)する資質が求められている。