拉致問題解決 次期首相の下で全力尽くせ


 安倍晋三首相の辞意表明を受け、それまで最優先課題と位置付けられてきた日本人拉致問題の行方に改めて関心が寄せられている。被害者が拉致されてから数十年の歳月が過ぎ、家族も高齢化が進んで亡くなった方も少なくない。政府は次期首相の下、これまで以上に解決に向け全力を尽くさねばならない。

 「正恩氏と会い活路開く」

 安倍首相は辞任表明の会見で「この手で拉致問題を解決できず痛恨の極み」と述べた。これまでの拉致問題に対する安倍首相の取り組みからすれば、未解決は心残りに違いない。

 小泉政権時に官房副長官として首相訪朝に同行し、被害者5人の帰国に関わって以降、拉致問題は安倍首相にとって最重要の外交懸案であり続けた。

 第2次内閣では2014年のストックホルム合意で北朝鮮側と被害者再調査などを約束し、解決への機運が一挙に高まった。だが、最終的に北朝鮮が約束を履行せず、合意は事実上立ち消えとなった。

 その後も手掛かりとなる被害者の生存情報が伝えられたり、あらゆる対話ルートを通じた北朝鮮への交渉打診が続けられたりしたというが、成果を挙げるまでには至っていない。

 辞任表明の報に触れた被害者家族たちには驚きと落胆が広がった。問題解決に真摯(しんし)に向き合ってくれたという思いを抱いていたからだろう。多くの国民もまた同じ思いだ。

 だが、落胆ばかりしているわけにはいかない。新しい首相の下で解決を模索しなければならない。

 自民党総裁選で優位に立つ菅義偉官房長官は、出馬表明をした記者会見で、拉致問題解決に向け「金正恩朝鮮労働党委員長と条件を付けずに会って活路を切り開きたい」と語った。

 特異な独裁体制下にある北朝鮮を相手にする場合、トップである正恩氏を動かす以外、解決への道は開けまい。あらゆる手段を尽くし、正恩氏の意向を把握する必要がある。

 ただ、交渉が始まったとしても北朝鮮側には日本への不信感が根強いという。北朝鮮が戦後補償と絡めた金銭的見返りを求めてくる可能性もある。日本としては北朝鮮ペースに巻き込まれないよう細心の注意を払わなければならない。

 国際社会との連携も不可欠だ。安倍首相がトランプ米大統領に何度も要請した結果、米朝首脳会談の場で拉致問題が言及されたことは一つの前進だ。「拉致は解決済み」と言い続ける北朝鮮に態度を改めさせるきっかけにもなり得る。

 被害者は今も北朝鮮で帰国を待ちわびている。事件を風化させるようなことは絶対にあってはならないし、問題への取り組みを後退させてはならない。

 被害者返さねば北窮地に

 北朝鮮は国際社会による制裁の長期化に加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う中国との国境封鎖、大雨や台風による被害などが重なり、国内経済が深刻な打撃を受けていると言われる。核・ミサイルを廃棄しない上に拉致被害者を返さなければ、ますます窮地に追い込まれるということを北朝鮮に悟らせなければならない。