緊急事態宣言 成否は一人一人の行動に


 国民一人一人の行動変容によって、直面する国難を乗り越えていかなければならない。安倍晋三首相は新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)阻止のため、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。東京など7都府県を対象に5月6日までの約1カ月間だ。

首相が外出自粛を要請

 首相はこの宣言発出に先立つ国会答弁で、この時期に判断した理由について、4月6日に政府の諮問委員会の尾身茂会長から準備をすべきとの意見があったと説明。都市部を中心に累積患者数が2倍になる日数が7日未満になってきていること、このままでは地域の医療提供体制が逼迫(ひっぱく)し、さらに悪化の恐れがあることなどを挙げた。

 その上で、対象地域の住民に「生活の維持に必要な場合を除き、みだりに外出しないよう」要請。「仕事は原則自宅で」とも述べ、テレワークを推奨した。

 また改めて、密集、密閉、密接の「三密」を避けることの徹底を呼び掛けた。さらに「人と人との接触を8割削減できれば、2週間後には感染者を減少へと転じさせることができる」との見通しを述べた。

 緊急事態宣言は一部私権を制限するものの、基本的に現在欧州諸国で実施されている外出禁止令のように、違反者に罰金を伴うような強制力はない。あくまで要請に留まる。また、小池百合子都知事が言及したいわゆる「都市封鎖」(ロックダウン)を行うことはないとしている。

 しかし首相が諮問委の進言を受け、国民生活への甚大な影響などを総合的に判断した上で、宣言を出したことの重みは国民に伝わったはずである。

 強制性がない状況の中で、宣言を実効有らしめ、感染を終息へと向かわせることができるかどうかは、結局われわれ一人一人の行動にかかっている。

 「既に自分は感染者かもしれない」という意識を持って行動することを、首相は特に若い人たちに求めた。「それが、他の人ひいては自分の命を守ることになる」のである。

 首相も会見で言及したが、9年前の東日本大震災に際して日本人が確認した人と人との絆、他を思いやる気持ちを今こそ思い起こし、国民が一丸となって外出を自粛し、三密を避ける行動を取る時である。

 緊急事態宣言発令を受け、小池知事は5月6日まで東京都全域で外出自粛を要請するとし、施設の使用制限などついては国と調整し、11日実施を目指す意向だ。是非とも実効性のあるものにしてほしい。

 新型コロナの日本経済への影響を「戦後最大の危機」と位置付ける政府は、事業規模で総額108兆円の経済対策を行うと発表した。迅速な実施と、今後の状況を見極めた上での一層のきめ細かな対策を求めたい。

医療関係者を常に念頭に

 首相も記者会見の冒頭で触れ敬意を表したように、いま日本で新型コロナと最も深刻な戦いをしているのは、検査や治療の最前線にある医療スタッフだ。国や自治体には逼迫した医療を支える施策を求めたい。われわれ国民は、昼夜なく現場で戦う医療関係者のことを常に念頭に置くべきである。