五輪1年延期、人命守るためやむを得ぬ
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、今年7月に開幕する予定だった東京五輪の延期が決まった。
延期には多くの難題が待ち受けているが、選手や観客、関係者らの人命と健康を守るためにはやむを得ない。
夏季冬季通じて初めて
安倍晋三首相が国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話会談を行い、五輪とパラリンピックを「1年程度延期し、遅くとも2021年夏までに開催すること。年内開催は不可能」との認識で一致した。
近代五輪が、夏季冬季を通じて開催年を延期するのは史上初めてとなる。福島県できょうから始まる予定だった聖火リレーも延期となった。
新型ウイルスの感染は欧米を中心に急速に広がっている。五輪予選などが影響を受け、練習環境の確保が厳しい国もある中で、選手や競技団体、各国のオリンピック委員会から延期を求める声が相次いでいた。IOCは延期の検討に入る際に4週間以内に結論を出すとしていたが、選手らから早期決定を求める声が相次ぎ、決断を早めた。
これまでに今夏に代わる開催時期として、今秋、1年後、2年後の3案が取り沙汰されてきた。2年後の場合は選手の勢力図が変わるため、代表選考のやり直しが避けられない。今秋では新型ウイルスの感染拡大が続いている可能性がある。
結局、トランプ米大統領も言及した1年延期となったが、この場合も課題は多い。最大のネックとなるのが、7月16日~8月1日に福岡市で予定されている水泳の世界選手権、8月6~15日に米オレゴン州ユージンで予定されている陸上の世界選手権だ。スケジュールが五輪と重なるため、日程の調整が欠かせない。
東京五輪では計43会場のうち25会場で既存施設を使う。メディアセンターとなる「東京ビッグサイト」では、既に来夏のイベント予約が入っている。大会運営に協力する約11万人のボランティアも、延期で同じ人数を集められるか懸念される。巨額の追加支出をどのように分担するかも今後焦点となる。
首相は「完全な形」での大会開催を目指してきた。IOCや東京都、大会組織委員会と協力してさまざまな課題を克服し、何としても東京五輪を成功させなければならない。
延期されたことで真夏の時期の開催を避ける案も出ている。五輪ではマラソンと競歩が札幌で行われることになったが、選手や観客が熱中症にかからないようにするためにも、真夏以外の開催決定を期待したい。
今回の五輪は「復興五輪」でもある。東日本大震災から立ち直った日本の姿を世界に示す場となる。来年は震災から10年に当たる節目の年でもあり、延期を奇貨として復興を一層アピールしていきたい。
訪日客に喜ばれる準備を
また、多くの訪日客に日本の魅力を知ってもらう絶好の機会でもある。新型ウイルスの影響で、今年の訪日客数の目標である4000万人の達成は厳しい状況だが、五輪で訪日客に喜んでもらえるように万全の準備を整えたい。