北ミサイル連射、感染拡大で内部引き締めか


 北朝鮮が北西部から短距離弾道ミサイルとみられる飛翔体2発を北東方向に向け発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落下したとみられている。北朝鮮は2日、9日にもミサイルを発射しており、今月に入ってすでに3回目だ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が宣言された中、北朝鮮も防疫に追われ、国内の不安と混乱を抑え込むためミサイル発射で内部引き締めを図ろうとした可能性がある。

 軍活動も1カ月停止

 河野太郎防衛相は今回の発射と関連し、北朝鮮国内で新型ウイルス感染が拡大している可能性があるとの認識を示して「体制の引き締めに使っている」と述べた。

 在韓米軍のエイブラムス司令官も、北朝鮮軍がここ1カ月にわたり活動を停止していたと明らかにしながら「閉鎖国家なので断言はできないが、感染者がいると確信している」と語った。

 これらの発言は、北朝鮮国内が新型ウイルスで少なからず混乱していることを示すと同時に、相次ぐミサイル発射が単なる通常訓練の一環ではなく、内部引き締めの必要性から行われた可能性を示唆したものだ。

 北朝鮮は外務省が声明で感染者はゼロと断言したが、実際には感染を完全に防ぐのは困難との見方が支配的だ。感染源の中国との国境は約1300㌔に及び、国境を封鎖しても経済的必要性から人とモノの往来が密(ひそ)かに続いている可能性が高い。

 北朝鮮の場合、ひとたび感染が広がっても独裁体制の特性上、外出禁止など人の移動を遮断するのは比較的簡単だろう。だが、脆弱(ぜいじゃく)な医療体制がネックとなり、重篤化した患者の治療などには限界もある。

 朝鮮中央通信は今回の発射が軍部隊の「砲撃対抗競技」の一環で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「戦術誘導兵器の試射」を視察したと報じたが、軍活動が停止していたとするエイブラムス司令官の発言とは相いれないものだ。軍活動停止が事実であれば、国内の混乱を外部に知られないよう意図的に軍の訓練を装った可能性もある。

 北朝鮮はその一方で来月10日に平壌で最高人民会議(国会に相当)を開くと明らかにした。これも国内の混乱を抑えるため、自力による経済活動や軍事力増強など既存の路線を再確認させる内部結束にも大きな狙いがあるとみられる。

 同通信によると、正恩氏の妹、金与正党第1副部長は談話で、トランプ米大統領が正恩氏に親書を送り、米朝関係改善に向けた構想を説明し、新型ウイルス対策で協力を申し出たと明らかにした。これに対し正恩氏はトランプ氏との親密な関係を強調しつつ、関係改善と対話には公正さが必要と述べたという。

 国際社会の経済制裁で国内が逼迫(ひっぱく)する中、核の段階的放棄でトランプ氏から制裁緩和の約束を何とか取り付けたい正恩氏の苦しい胸の内がうかがえる。

 対北抑止へ不断の努力を

 もちろん技術向上を伴う北朝鮮の武力挑発には警戒を強めなければならない。海上自衛隊7隻目のイージス艦「まや」が配備されたが、対北抑止へ不断の努力が求められる。