原子力は総合科学技術 第四世代原子炉の選択も


東日本大震災11年

福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)にある水素を貯蔵しているガスホルダー-福島県浪江町、2021年6月15日、森啓造撮影

 東日本大震災の津波による停電で起きた福島第1原発事故から11年。わが国は1955年に国民総意で原子力基本法が制定され、すぐ予算が付けられたが、「将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与する」とする同法による原子力の平和利用の目的は今も変わらない。

 東京都市大学工学部の高木直行教授(原子力安全工学科)は「第1はエネルギー源としての原子力で、その特徴は核変換。電気をつくる最も有効な手段で、太陽や風力は逆立ちしても勝てない」とし、さらにその役割に「放射線を利用したがん腫瘍の治療や診断などの医療、宇宙開発のための原子力電池」などを挙げる。

 高木教授らは、悪性黒色腫や白血病等の新たな治療法として、近年注目される「α線源内用療法」の医薬品主成分であるアクチニウム225を効率的に生成する技術を考案した。これまで海外からの輸入に頼ってきた治療用の放射性物質の国産化の方向も見えてきたという。

 また宇宙を舞台にした学術研究では、地球以外の天体や惑星間空間から試料を採取し持ち帰り、生命起源などを探る小惑星探査機「はやぶさ2」の活動などがある。その電源は太陽電池とリチウムイオン電池。しかし今後、数年から数十年にもわたり、遠宇宙を長旅する惑星探査の時代になれば太陽電池に期待できない。開発されているのが原子力電池だ。

 「医学や宇宙開発などの原子力の先端科学技術は、他領域の科学の進展、総合化につながり、人類の社会福祉の実現に今後大いに貢献する」(高木教授)。

 原子力は環境問題解決のためにも必須だ。今、各国とも石油代替エネルギーとして水素エネルギーの利用を図ろうとしている。この水素は高温ガス炉(原子炉の一つ)の熱エネルギーによる水分解を行うことで安価に大量に生み出せる。日本政府も2050年カーボンニュートラルに向け、高温ガス炉を活用した水素製造の技術開発に力を入れる予定だ。

 一方、原子力エネルギーの利用は、資源的に見て石油と同程度の量しか期待できない。高速炉や放射能の影響が小さい第四世代原子炉と言われるトリウム熔融塩炉が注目される。フッ化物熔融塩に親物質としてのトリウムとウランまたはプルトニウムを混合し、それを液体燃料として用いるもので、メルトダウンを起こさない。炉心の外壁も軽水炉のように分厚いものである必要がなく、水蒸気や水素が容器や格納室にたまって爆発するようなことがない。放射能の外部漏れが抑えられるため、実用化に向けた期待が高まっている。

(編集委員・片上晴彦)