東南アジア、中国高速鉄道事業が中断
タイ、ミャンマー、インドネシアなど
中国版新幹線・高速鉄道の東南アジア拡張プロジェクトが滞り始めている。その穴を埋める形で中国は、約70兆円規模の資金を投入し、国内高速鉄道のインフラ拡張に踏み出す。採算無視の同プロジェクトは、共産党政権の負の遺産になる可能性が高い。
(池永達夫)
中国、採算無視し大規模国内投資へ
インドネシアでは首都ジャカルタと主要都市バンドンを結ぶ高速鉄道(約140キロメートル)の工事が新型コロナウイルスの影響で今春以降、中断されたままだ。中国の国有銀行が融資し、国有企業が工事に関わる事業だ。工事の進捗(しんちょく)率は50%に届かないまま、来年を完成予定とする建設計画は大幅な変更を余儀なくされる見込みだ。
ミャンマーでも中国国境ムセと同国第2の商都マンダレーを結ぶ高速鉄道計画も現在、凍結状態にある。
そして、マレー半島の高速鉄道,マレーシアの首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道(HSR)の建設計画は、年末までの再延期となった。
またタイは、中国と結ぼうとしていた高速鉄道建設工事の契約交渉期限を5月から10月に延期した。同高速鉄道は首都バンコクと東北部の主要都市ナコンラチャシマを結ぶ約250キロメートルで、中国は北京とシンガポールを高速鉄道で結ぼうという東南アジア版一帯一路構想の一環として重視しているものだ。
こうした海外での中国主導の高速鉄道が足踏みを余儀なくさせられている中、中国政府は国内の高速鉄道建設に力を入れようと動き出した。
中国国家鉄路集団は13日、同社が独占運営する高速鉄道の総延長距離を2035年までに約7万キロメートルへ延ばす計画を発表した。中国は現在、世界最長を誇る3万5000キロメートルの高速鉄道網を整備しているが、その倍だ。実現すれば現在の日本の新幹線の約21倍に達する。総投資額は少なくとも4兆5500億元(約70兆円)と巨額に上る。これまでの大都市間だけでなく、人口50万人以上の都市のすべてに高速鉄道を通そうというのだ。
ただ問題は、採算が取れる見込みがないまま巨額投資に踏み切ろうとしていることだ。鉄路集団の19年12月期の売上高は1兆1348億元(約18兆1600億円)、最終損益が25億元(約400億円)の黒字だったが、売上高純利益率は0・2%にすぎない。
中国高速鉄道は北京―上海、広州間などのドル箱路線がある一方、遼寧省や黒竜江省、吉林省の東北三省や新疆ウイグル自治区の西部など、とりわけ地方都市の採算が厳しいのが現実だ。この地方都市での赤字を大都市でカバーしている格好だが、これからさらに小規模な地方都市に伸ばしていけば赤字は膨らまざるを得ない。
鉄路集団の収益力が弱く、高速鉄道延伸による大型投資を回収するめどが立たないにもかかわらず巨大赤字覚悟で踏み出すのは、中国政府は採算が合うかどうかといった経済的判断ではなく、政権の求心力を維持するための政治的判断といった背景があるからだ。
海外から中国型強権統治への風圧が高まる中、習近平政権は最近、人口13億人という自国の巨大市場に頼んだ国内循環経済論を言い始めている。その輸送インフラを整備するための高速鉄道拡張という意味があるかもしれないが、巨大な負の遺産として次期政権に重くのしかかってくる公算が強く、いずれ改革を余儀なくされるのは必至だ。