領土領海への野心隠さぬ中国

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

民主国家が連携し対峙を
尖閣に管理施設造り島を守れ

ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所教授
ペマ・ギャルポ

 中国の野望には限界が無い。今は南シナ海や東シナ海からヒマラヤの奥地、さらにはヒマラヤの奥地の小国ブータンまでの領土、果ては宇宙や北極まで制覇しようとの目論見(もくろみ)を露(あら)わにしている。またその方法に、もはや手段を選ばずという、まさに超限戦争に入っている。

 日本においては、尖閣諸島周辺の接続水域に3カ月を超えて、武装公船が我が物顔に停泊し続けている。日本のメディアは無知なのか、または無知を装っているのか、中国によるこのような一方的な世界秩序の破壊を見て見ぬ振りをし、むしろ擁護するような報道に徹している。

5年前から“義勇兵”用意

 例えばアメリカ合衆国がヒューストンにある中国の総領事館の撤退を要求したことと、中国が行った成都のアメリカ総領事館の閉鎖を同様に扱っている。この問題は本質的に原因が違うということについて全く触れていない。アメリカによる中国総領事館の閉鎖は、中国側の外交特権という国際ルールを超えた目に余るスパイ活動への措置であり、中国による米総領事館閉鎖は、ただそれに対する報復措置にすぎない。

 このような中国の行為に対して、オーストラリア、ベトナム、マレーシアなどがアメリカの姿勢への支持を明快に示している。それなのに日本のメディアは、アメリカの行為をすぐトランプ大統領の選挙への個人的な利益のための行動であるかのように報道し、真実を国民の目から逸(そ)らすことに終始している。

 アメリカのポンペオ国務長官は、中国との協調を重視するアメリカの過去半世紀の「関与政策」は過ちであり、中国が国際ルールに則(のっと)って、国際社会の一員として責任ある国家になることを願ったことは幻想であった、と自ら反省を込めて国際社会に訴えている。また彼は自由主義対共産主義の戦いであるということも言明している。

 しかし日本は、いまだに中国に対する幻想から目覚めていない。このままでは日本の尖閣諸島も、場合によっては戦火を交えずに、中国の漁民と称する偽装民兵によって完全に占拠されることも時間の問題であるように思う。例えばインドに対しての国境侵入は用意周到な訓練に基づき、非武装兵士たちが素手と木と鉄の棒を使って20人のインド人兵士の命を奪った。中国は、尖閣諸島に上陸するための建前上の義勇兵を、5年前から用意している。

 日本の親中派有力政治家は、今こそ先頭に立って中国に忠告し、その覇権行為を中止するよう求めるべきである。それがダメであれば日本もそれなりの覚悟があることを伝えると同時に、何らかの有効な対策、具体的には中国が南シナ海の人工島を管理する役所を開設したように、日本も東シナ海に行政管理する施設を造るような措置を取るべきである。平和を唱え、中国の顔色を窺(うかが)って忖度(そんたく)しても、それが通じるような国でないことを日本はそろそろ自覚すべきである。

 ヒマラヤの平和な国、日本でも人気の高い仏教王国ブータンに対しても、中国は突然、領土の11%に対して領有権を主張している。今まで国境問題に関する、ブータン政府と中国の間の24回にわたる協議の中で、ブータン東部のサクテン野生生物保護区域設定予定の領域に対して、中国側が問題視したことは一度もなかった。それなのに、突然、中国側から国際機関「地球環境ファシリティー」の会議で待ったを掛けてきた。

 このように、もはや中国のアジアの領海、領土に対する野心は露骨に表面化している。平和を愛する日本は、このような習近平政権の中華大夢すなわち世界制覇を許すことは、いずれ我が身にも降りかかる災いであると認識すべきである。

超党派議員の動きに期待

 幸いに今回、香港に対する中国の強引な一国二制度を廃止する行動に、日本でも中谷元・元防衛相を中心に超党派の議員が勇敢に立ち上がった。この報道に接し、多少私も含め多くのアジアの人々が、主権国家としての日本と、自由を尊ぶ日本国民を評価すると同時に、改めて期待を寄せている。

 ポンペオ国務長官が言うように、今こそ民主主義の国家による新たな同盟を築き自由、民主、法の支配とその価値を重んずる国々や人々が連携を強化して中国と対峙(たいじ)することが急務である。