チェコ上院議長、台湾訪問へ 中国は中止求め、報復示唆

 チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長は今月29日から9月5日の予定で台湾を訪問し、蔡英文総統ら台湾指導者と会談する。同議長には議員、企業代表など約90人が随行する。チェコ上院議長の訪台が実現するまで紆余曲折があった。中国側はチェコ上院議員の訪台を阻止するためにあらゆる手段を行使してきたからだ。
(ウィーン・小川 敏)

前議長が夕食会後に急死

 訪台は、ヤロスラフ・クベラ前議長が2月に行う予定だった。クベラ氏は昨年、台湾の駐チェコ代表部から国慶節式典参加の招待状を受け取った。1月の台湾総統選挙後に訪れる意向だった。

ゼマン大統領

チェコのゼマン大統領=2019年5月15日、ブダペスト(AFP時事)

 そのニュースが流れると、中国共産党政権は、チェコのナンバー2の立場にある上院議長の訪台計画を阻止するため、親中派のゼマン大統領らを動かして圧力を行使。張建敏・中国大使はクベラ氏に書簡を送り、「訪台すれば、チェコの対中貿易関係に大きな支障が生じるだろう」とあからさまに脅迫した。

 具体的には、中国でビジネスを展開するチェコのシュコダ自動車など複数のチェコ企業に対して、報復することを示唆したという。

 事態は急変した。クベラ氏が1月20日、心筋梗塞で急死したためだ。担当医の話では、「クベラ氏の心臓発作は突然のものではない。心臓に症状が出始めたのは、中国大使館が議長夫妻を夕食会に招待した1月17日ごろだ」という。

 クベラ氏の夫人はチェコのテレビ番組などで、中国大使館主催の夕食会の様子を明らかにしている。以下、その部分を海外中国メディア「大紀元」の記事から再現する。

 「夕食会当日、大使館職員から、夫と離れるよう要求された。張大使と1人の中国人通訳が夫を別室に連れて行き、3人で20~30分話した。夫は出てきた後、かなりストレスを感じている様子で、すごく怒っていた。そして、私に『中国大使館が用意した食事や飲み物を絶対に口にしないように』と言ったという。夫に、部屋の中で何が起きたのか聞くと、『張大使から台湾に行かないように求められた。もし行けば、張大使自身が中国政府により逮捕されるそうだ』と話したという」

 同夫人によると、クベラ氏の部屋には中国大使館とゼマン大統領事務所からの手紙が残っていたが、もしクベラ氏が訪台すれば、中国でビジネス展開するチェコ企業に何らかの制裁を科すという内容とともに、クベラ氏の家族にも危険が及ぶことを示唆していたという。

 夫人の証言で興味深い点は、クベラ氏が張大使と会談した後、夫人に「上院議長が訪台すれば、張大使自身にも危険が及ぶと語っていた」という部分だ。中国共産党政権は訪台を計画していたチェコ上院議長だけではなく、自国の張大使をも脅迫していたのだ。

 思い出すことがある。国際刑事警察機構(本部リヨン、ICPO)の孟宏偉総裁(65)が2018年10月、突然辞任し、北京に戻った。辞任理由は後日、孟総裁が検査委員会、国家監察委員会の取り調べ対象となっていたということ。同総裁は19年3月27日、収賄や職権乱用を含む違法行為を行ったとして公職から追放され、党籍剥奪の上で刑事訴追された。

 同事件は、国際機関のトップでも、中国共産党政権はいつでも解任でき、拘束できることを示した。張大使はそのことをよく知っているはずだ。だから、クベラ氏との会見で、自身の進退を懸けて台湾訪問をやめてくれと嘆願したわけだ。

 中国側の圧力にもかかわらず、チェコ議会(上院)は5月23日、上院議員を含む一団の台湾訪問を支持する決議案を圧倒的な賛成多数で可決した。上院議員の1人、マレク・ヒルシャー氏は、「チェコは独立した自由で民主主義的な国であり、外国、特に権威主義的な国から恐喝を受けるべきではない」(「大紀元」)と語ったという。

 プラハのズデニェク・フジブ市長は昨年、チベットへの支持を表明し、中国共産党による台湾政策「一つの中国」を受け入れられないと述べている。昨年10月、プラハは北京との姉妹都市協定を終了させ、今年1月に台北と姉妹都市関係を正式に結んだ。

 チェコ側の毅然とした対中政策は日本にとっても参考になるだろう。