柔道60キロ級の高藤直寿、走り続けて悲願の金
3位だったリオから成長、正しい努力でようやく主役に
銅と金。柔道男子60キロ級の高藤は、前回のリオデジャネイロ五輪では3位にとどまり、その差を痛感してきた。頂点だけを見据えた東京五輪。主役になるのにふさわしいレベルアップを遂げ、ついに悲願をかなえた。
接戦の連続だった。2年前の世界王者、チフビミアニとの準々決勝は7分半を超え、スメトフとの準決勝は11分以上。楊勇緯との決勝も7分40秒の長い戦いだった。
最後は相手が指導三つの反則負けで金メダルが決定。効果的な技は繰り出せなかったものの、主導権は握り続けた。「これが僕の柔道。一番無難な勝ち方を選んだ」。この5年間、豪快さよりも、勝ちに徹する柔道を意識し、組み手や受けの強さを磨いてきた。
リオで銅メダルを獲得しても、お家芸の柔道では「金メダリストの背景のような存在」と感じた。世界選手権は3度も制覇。自宅に飾った多くのメダルの中、五輪のものだけは色が違い、息子に「何で金じゃないの?」と言われた。「心にぐさっときた」と、高藤は悲しげな笑みを浮かべる。
過去は暴飲暴食もいとわず、「やんちゃだった」と率直に振り返る。遅刻が原因で強化指定から外されたことも。リオ五輪は「出ればいけるでしょ」という甘い考えもあった。
忘れ物をつかみ取るために走り続けた。男女計5人いる日本柔道の2大会連続五輪代表でリオ後、けがや休養などでの長期的な離脱がなかったのは高藤だけだ。これまで以上に筋力強化に取り組み、加齢による基礎代謝の低下に応じて減量方法も変えてきた。「正しい努力は裏切らない」。そう実感を込めた。
所属先の吉田秀彦総監督は「リオからすごく成長した。すごく研究するし、取り組む姿勢が変わった。今回は心配ない」。金メダリストから太鼓判を押されて臨んだ2度目の大舞台。どこかもろさをはらんでいたあの頃の姿は、もうなかった。