日本の宇宙基本計画の進展

青木 節子慶應義塾大学教授 青木 節子

重要な「宇宙状況把握」

防衛通信衛星など成果目標

 昨年(平成27年)の1月9日、第三次宇宙基本計画が首相を議長とする宇宙開発戦略本部で決定された。初めて政策目標に「宇宙安全保障の確保」を明記しただけではない。他の二つの目標、「民生分野における宇宙利用の推進」、「宇宙産業及び科学技術の基盤の維持・強化」との関係でも、宇宙安全保障の確保を重点課題と位置付けると記された。

 開発から利用重視へと舵を切った第一次計画(平成21年6月)、自律性の確保を謳い、内容的にはほぼ宇宙を活用した安全保障の強化に迫りつつも、「安全保障」という言葉を掲げること自体は回避した第二次計画(平成25年1月)を経て、遂に宇宙基本法(平成20年)以降の日本の宇宙活動の目標と実現のための方法や過程が明確に打ち出されたといえる。

 第三次宇宙基本計画の特筆すべき点は、総計53のプロジェクトそれぞれについての工程表が付されていることである。同計画は今後10年間にわたるため、それぞれのプロジェクトの年度ごとの達成状況を示すことで計画の進捗管理を行うことが重要である。そのため、宇宙政策委員会で53のプロジェクトすべてに対する成果目標を明確に定め(「各工程表の成果目標について」同年3月20日了承)、毎年工程表を改訂し、個々の衛星やロケットの開発、製造、打ち上げの最新の予定を可能な限り具体的に示すことで、プロジェクト評価とするとともに、産業界等への予見可能性を高め、産業基盤維持に役立てることとなった。

 平成27年度改訂版は、12月8日に宇宙開発戦略本部で決定された。これによって、宇宙基本計画の内容がより明確になり、かつ平成28年度末までの作業が具体的に確定した。以下、安全保障に関連する箇所を中心に改訂された工程表が示す日本の宇宙政策を概観する。

 主要国の防衛省の間では、日本のみが自身の衛星を保有していないという異様な状況に終止符を打ち、平成28年には、Xバンド防衛通信衛星の1、2号機を保有し、平成32年度には3機体制が確立することが確認された。これにより、自衛隊の指揮統制・情報通信能力の強化が確実となる。

 最も計画が安定する準天頂衛星(みちびき)システムでは、平成35年度の7機運用体制に向けて、現在、2号機から4号機までの設計・開発が進む。準天頂衛星システムは、米国のGPS衛星との連携を進め相互運用性を高めることにより、スペースデブリや敵――国とテロリスト――のASAT(衛星破壊)攻撃に対しての脆弱性を減少させること――「抗堪化」――を目指す。どちらかのシステムが事故や攻撃にあっても同盟国同士で補い合うからである。

 米露中は別としても、欧州主要国の防衛省もそれぞれ画像偵察衛星を持つなか、日本は長く非軍事利用のみを平和利用とみなした経緯から、情報収集衛星(IGS)は内閣衛星情報センターが運用する。第三次計画では、IGSは、従来の4機体制を基盤としつつ「機数の拡充・強化を図る」ことまでが決定していた。新たな工程表により、平成28年度は、光学・レーダーの基幹衛星4機に加え、時間軸多様化衛星4機、データ中継衛星2機を加えた合計10機体制整備の計画について検討することとなった。現在は、光学衛星4、5号機、データ衛星3、4号機と予備機の運用という実質4機体制である。

 文科省が開発利用に責任を有する汎用衛星としての先進光学・先進レーダー衛星(それぞれ平成31年度、32年度打ち上げ予定)に加え、抗堪化に直結する即応型小型衛星とそのためのロケットや射場(空中発射の可能性も含む)についての、より具体的な計画は次年度以降、可能であれば数値目標を付して提示されることになる。

 宇宙の安全保障は日本の努力とともに、米国との同盟深化を通じて達成するが、その第一歩として、宇宙空間のどこにどのような物体があるのかを認識する、いわゆる「宇宙状況把握(SSA)」が重要である。今年度は米戦略軍との連携強化に向けた協議を継続的に実施しており、次年度以降の体制整備、研究開発につなげる。防衛省の役割の明確化がその要となるだろう。海洋国家である日米双方にとり、衛星監視などの宇宙技術も用いて行う「海洋状況把握(MDA)」も将来に向けての重要協力項目である。

 今年度の任務であった国内での関係府省の共通認識醸成を経て、来年度には日米間で、具体的な連携強化を図ることになる。衛星の効率的利用のためには、相互運用性を高めることとともに、相手国の衛星に自国のミッション機器(センサー)を搭載するいわゆる「相乗り」が計画されている。

 日本は、これまでも米国の平等なパートナーとして宇宙開発利用を行う環境を作り上げるため非常な努力を重ねてきた。それが実りつつある。新たな状況下での日本の任務は、より安全で平和的な宇宙秩序の構築に向けて主導的な役割を果たすことである。これは、アジアでは日本にしかできない貢献である。

(あおき・せつこ)