地中海のボートピープル、ギリシャなどに支援・連帯表明を

山田寛

 6月下旬、ギリシャとイタリアを回った。金融危機ではなく、地中海の難民・移民のボートピープル問題の調査旅行である。

 ギリシャ国民の経済困難の兆候はいっぱいだった。首都でも閉じた店舗が目につく。78歳と76歳の老夫婦は、「年金が3年前から3分の1=月額約750ユーロ(10万円)も減った。現役の給料も同様だから、皆これ以上どう悪くなるか、びくびくしている」と言った。失業率27%、若者は50%。地下鉄車内で、10歳余りの男の子が懸命にアコーデオンをひき小銭をもらっていた。

 だが、そんな国の島に、シリア人、アフガン人などのボートピープルが連日、目と鼻の先のトルコから到来する。観光地、コス島の管区警察局長によると、コス島には今年1~6月(26日)は1万634人が到着。昨年同期の65倍だ。それなのに、同警察局の3台の指紋採取機械のうち2台が最近壊れ、修理ができず困っていると嘆いた。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、今年は6月半ばまでに、イタリアに約5万6500人、ギリシャに約5万5000人など、地中海のボートピープルは約11万3000人に達した。途中の水死・行方不明者は約1850人。

 イタリアへの場合、アフリカ各地からリビアまでたどり着いた後、小船に超満員で詰め込まれる過酷な旅で、若い男が大半だ。内戦や暴政や貧困を逃れ、欧州に希望を託すが、フランスなど移民に国境を閉ざした国もあり、今後も容易ではない。だが、地中海の北を目指す若者は決して絶えない。

 ギリシャの方は超急増だ。これまでの放漫財政の結果とはいえ、財政、ボートピープルのダブル危機。中東の内戦や過激派テロ組織拡大は当分続くだろうから、こちらも構造問題だ。

 でも、住民は精いっぱい対応していた。コス島の難民移民一時収容施設は、何年も前に倒産した元ホテルを差し押さえた銀行が提供し、食糧や日用品はホテル組合などが寄付し、管理や世話にはボランティアが当たっている。だが、財政危機拡大で、施設やボランティアの運命は分からない。

 欧州連合(EU)は先月末までに、今後2年間に6万人の難民(うちイタリア、ギリシャ経由は4万人)を各国が分担して受け入れる方針や、ボート探索・救済活動予算の3倍増、対密航業者軍事作戦開始などを決めた。だが、どれだけ実行されるか不明だし、ボートピープル減少にはつながらない。リビアで待つ予備軍は50万人以上ともいうのだ。

 UNHCRは、国際社会に400万ユーロの拠出を訴える。

 EUがギリシャの難民移民受け入れ窓口コストを、債務削減努力の大きな一部に組み込むべきだとも思う。しかし、もう欧州だけでなく世界の問題ともなっている。

 日本は、先にミャンマーからのロヒンギャ・ボートピープルに、350万㌦(4億3000万円)の支援を表明した。地中海にも何らかの支援と連帯表明をしてはどうか。日本の難民受け入れ数は、現在年間1ケタ・レベルに再降下しているが、外国キャンプの難民を引き受ける「第三国定住」によるシリア難民受け入れなども、検討してよい。

 水道の蛇口、中東やアフリカの難民・移民発生諸国の問題解決努力にも一層積極関与すべきだろう。

 ギリシャには、ロシアや中国が財政支援の手を伸べるかもしれない。だが、両国は逆立ちしても、難民・人道支援は不向きだ。日本が違いを示す分野だと思われる。

(元嘉悦大学教授)