容疑者逃走、危機管理体制がお粗末だ
大阪府警富田林署の留置場に勾留されていた容疑者の男が逃走した。警察の危機意識の欠如が招いた事件と言うしかない。
面会室のアクリル板壊す
男は弁護士との接見後、面会室のアクリル板を壊して弁護士が出入りするドアから逃げたとみられる。接見は弁護士と二人きりで、手錠はしていなかった。
アクリル板は30年前に設置され、一度も交換していなかった。点検は目視だけで、実際に押して強度を確かめてはいなかったという。
面会室の人の出入りを感知して鳴るブザーもあったが、同署では日常的に電池を抜いていたため機能していなかった。署員が面会室を確認し、逃走が判明したのは、接見終了から2時間近く経過した後だった。
あまりにもお粗末な危機管理体制だと言わざるを得ない。容疑者の逃走など全く想定していないかのようだ。
ブザーは面会室から隣の前室に通じるドアが開けば音が鳴る仕組みで、栃木県警の面会室で2007年、弁護士との接見を終えた容疑者が、一人きりになった際に自殺した事態を受け設置された。しかし同署ではブザーを活用せず、弁護士に接見終了の声掛けを求めるだけの運用をしていた。
容疑者が逃走した日は声掛けも求めていなかったという。平日は前室に署員が待機するが、土日や夜間は不在となる。この時は日曜の夜間で、弁護士は接見終了を誰にも知らせず帰宅。容疑者側のドアの前にいた署員は終了に気付いていなかった。
これでは何のためにブザーを設けているのか分からない。治安維持という警察の使命はどこに行ったのだろうか。
男は今年5月以降、窃盗や強制性交などの容疑で計4回逮捕されていた。逃走したのであれば、周辺住民に一刻も早く知らせなければならないが、同署が防犯メールを通じて住民に注意喚起したのは、発覚から8時間以上も過ぎた後だった。危機意識が欠けていると批判されても仕方があるまい。
府内では、男の犯行と疑われるひったくり事件が続発している。府警に住民からの苦情が相次いだのは当然だろう。府警は加重逃走容疑で捜査本部を設置し、全国に指名手配して3000人態勢で行方を捜しているが、早期逮捕に全力を挙げる必要がある。
警察署などから容疑者が逃走する事件は過去にも全国各地で相次いだ。もっとも、こうした事件が発生するのは取り調べ中や連行直後が多く、今回のように面会室から逃走することは異例だ。
警察署だけではない。愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場では今年4月、受刑者の男が逃走した。本州に渡った後、22日ぶりに広島市内で逮捕されたが、周辺住民を大きな不安に陥れた。
再発防止を徹底せよ
今回の事件を受け、警察庁は全国の警察に留置施設の点検を行うよう指示した。
容疑者の逃走は警察の失態であり、決してあってはならないことだ。気を引き締め、再発防止を徹底しなければならない。