トランプ大統領4カ月 帰ってきた「世界の警察官」
発言の裏に光る決断力
トランプ米大統領が就任してから4カ月が経(た)とうとしているが、当初から世界中の多くの人々が彼に抱いていた不安感が少しずつ溶解し始めているように感じられる。おそらくその最大の理由は最近の彼の外交政策にある。化学兵器を使用したシリアのアサド政権への制裁として軍事施設をミサイル攻撃で壊滅させるや否や、返す刀で核・ミサイル開発を強行する北朝鮮への軍事的威圧を強めたのである。
衆目の心配をよそに間髪を容(い)れることなく対応措置を講ずるトランプ大統領の姿は、口先の批判ばかりで具体的な行動を取らなかった前任者のオバマ氏とは雲泥の差であり、あたかも「世界の警察官」たるアメリカが帰ってきたかのような印象を世界中に与えている。こうした一連の政策により、多くの人々がトランプ大統領の過激な発言の裏に隠されていた決断力と行動力を目の当たりにすることとなった。
その戦略は周到であり、アメリカ自身による軍事的圧力に加え、北朝鮮の後ろ盾である中国やロシアからの説得工作を画策しつつ、国連安保理においても改めて制裁決議を実現するという三重の包囲網で北朝鮮を封じ込めつつ、他方では民間ルートを使って対話の道も開くという策略である。
彼の一枚看板であるアメリカ・ファーストが、アメリカが最強である代わりに世界の警察官としての役割も果たすという2頭だて馬車の政策理念であったことを確認できる。実のところ、トランプ大統領の政策には学問的にも妥当な理念が存在している。
たとえば、彼が経済政策の指針として掲げる大幅な減税や大規模な公共投資による雇用の創出を通じた消費支出の拡大という論理は、不安的な景気変動の波を緩和させて安定的な経済成長を実現するためのケインズ主義の理論を踏襲した政策であり、他者に働かせて自分は利ザヤだけをかすめ取るのに躍起になってきたマネー・キャピタリズムへのアンチ・テーゼである。
また、彼の政治外交の指針として掲げられているアメリカ・ファーストも、固有の個性を有する主権国家の自律性を重視したドゴール主義の理論を踏襲した政策であり、環太平洋経済連携協定(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)からの離脱など、各国の個性を摩滅化させて無理やり一つの枠組みに縛りつけるグローバリズムへのアンチ・テーゼと言える。
もちろん、トランプ大統領自身がこうした知識を有しているかどうかよりも、むしろ彼の周囲の側近たちの政策提言に基づく可能性は高い。しかし、誰が発案した政策や戦略であるのかは問題外である。
リアリズムに立つ器量
重要なことは、少なくともトランプ大統領が自己または他者の効果的な提言を採用し、実行する決断力と行動力を有する人物であるという事実である。こうした人間的器量こそは政治的リーダーに必要不可欠な資質であり、残念ながら政治家や軍人としての豊富な経験を有していたはずの他の凡人政治家にはなかった要素である。過程よりも成果を重んじるビジネスマンならではのリアリズムの気質であろう。アメリカ国民が選んだリアリストたるこの最後の切り札は、ルペン氏を当選させられなかったフランスと明暗を分けながら、いよいよ世界中の誰もがなし得なかった「イスラム国」(IS)の壊滅へと駒を進めていく。
なお、現時点で彼の内政を評価するのは愚見である。国境の壁建設やオバマ・ケアの見直しは、外交や軍事とは異なる国内の既得権益勢力との対決が必要であり、時間を要するのが当然だからである。