辺野古土砂投入、移設実現に向けた新たな一歩


 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に向け、政府は名護市辺野古沿岸部の埋め立て海域に土砂の投入を始めた。移設実現へ新たな一歩を踏み出したと言える。

普天間返還合意後初めて

 土砂投入が行われたのは、沖縄本島東海岸の辺野古崎南側の護岸で区切られた約6万3000平方㍍の海域。日米両政府が1996年4月に普天間飛行場の返還で合意して以降、建設予定海域に土砂が投入されたのは初めてとなる。移設計画は新たな段階に入った。

 辺野古移設は普天間の危険除去と日米同盟の抑止力維持を両立させる唯一の方法だ。日米両政府は早ければ2022年度の普天間返還を目指している。

 普天間は市街地の中心に位置し、世界で最も危険な飛行場と言われている。04年8月には普天間所属の米軍ヘリコプターが近くの沖縄国際大学構内に墜落する事故が発生。昨年12月には隣接する小学校の校庭に米軍ヘリの窓が落下した。

 周辺住民を巻き込み、死者が出るような大事故が生じれば、日米関係を大きく揺るがすことになりかねない。一日も早く返還を実現する必要がある。

 一方、辺野古移設反対を掲げる玉城デニー知事は土砂投入に対して「激しい憤りを禁じ得ない」と反発。埋め立て承認撤回の効力を一時停止した石井啓一国土交通相の判断を覆すため、総務省の国地方係争処理委員会の審査への対応に全力を挙げる構えだ。だが、こうした姿勢は工事の完了をいたずらに遅らせるもので無責任だと言わざるを得ない。

 今年8月に死去した翁長雄志前知事も「辺野古に新基地は造らせない」として、知事権限を駆使して移設に抵抗した。しかし最高裁は16年12月、翁長氏による埋め立て承認取り消しは違法だとの判断を下している。

 沖縄では、辺野古移設に対して「基地の県内たらい回し」との批判が根強い。来年2月24日には、移設の賛否を問う県民投票が行われる。法的拘束力はないため、たとえ反対票が上回ったとしても移設を止められるわけではないが、国と県との対立が先鋭化して混乱を招くことは避けられない。

 確かに、沖縄の基地負担は重い。だが沖縄が、核・ミサイルを手放そうとしない北朝鮮や海洋進出を強める中国をにらむ戦略的要衝であることを忘れてはならない。

 特に中国は、沖縄に属する尖閣諸島の領有権を一方的に主張し、日本の海上保安庁に当たる中国海警局の船舶が尖閣周辺で領海侵入を繰り返している。今年7月に海警局が準軍事組織の人民武装警察部隊に移管され、活動強化が懸念されている。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、沖縄の米軍基地の重要性は高まっている。

一層の基地負担軽減も

 辺野古移設が実現すれば、普天間の危険が除去されるだけでなく、基地面積が縮小し、騒音被害も減少する。政府は移設に対する理解を得られるよう沖縄県民への丁寧な説明に努めるとともに、普天間以外でも抑止力を損なわない範囲で基地負担軽減を進めるべきだ。