辺野古問題、「普天間の運用停止は一刻も早く」と移設を説いた日経

◆翁長沖縄知事に苦言

 沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設計画をめぐる問題は、政府と沖縄県の間で1カ月にわたって行われた集中協議も決裂し、対立は最終的に「法廷闘争」にまで行くことが避けられない状況となった。翁長(おなが)雄志(たけし)知事は14日に、仲井真弘多・前知事が出した移設先となる名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消す手続きを開始した。政府はすでに12日に、集中協議で一時中断していた移設作業を再開しており、政府と県の対立は新たな段階を迎えたのである。

 沖縄県は翁長知事が埋め立て承認取り消しの考えを表明した14日に、防衛省沖縄防衛局に対し、承認取り消しに関する意見聴取を28日に行うことを通知した。こうした承認取り消しの手続きが完了するまでに、約1カ月かかるとみられる。このあと県による取り消しが正式に決まれば、政府は行政不服審査法による不服申し立てを国交相に行うなどで対抗しながら作業を継続する構え。最終的には不服審査の裁決結果により、政府と県のどちらかが、承認取り消し無効か工事差し止めを求めて行政訴訟に踏み切り法廷闘争の事態となる可能性が高い。決着はいまや法的判断によるしかないのかもしれない。

 この問題で社説(主張)を掲げたのは、読売、朝日、産経、小紙(以上15日付)と日経(16日付)である。毎日は週内採決へ攻防大詰めを迎えた安保法案について「議会政治壊すつもりか」(15日付)、「法案成立に強く反対する」(16日付第1面)と2日連続掲載したため、承認取り消し問題までは手も頭も回らなかったようである。となると、言うまでもなく承認取り消し不支持(読売、産経、小紙、日経)と、対する支持(朝日)の色分けとなる。各紙社説タイトル「知事の承認取り消しは乱暴だ」(読売)「沖縄の安全損なう判断だ」(産経)「承認取り消しは最悪の選択だ」(小紙)「国も沖縄県も同じ行政なのに」(日経)が、それぞれ主張の内容を示している。

 そもそも普天間飛行場の辺野古移設については、住宅地に近接する飛行場周辺の危険除去が原点にあり、その上で米軍の抑止力が維持されるとして1996年に日米両政府が合意したものである。その急務の危険除去の枠組みについては置き去りにしたまま、移設の賛否だけが焦点となり論議されてきた。

◆読売は報告書に疑念

 各紙はこの原点について触れてはいるが、ヘリコプター事故に絡めて最も丁寧に分かりやすく説いたのは日経である。沖縄県宜野湾市の市街地にある普天間基地の「運用停止は一刻も早く実現しなくてはならない。/他方、中国の活発な海洋進出を考慮すれば、抑止力の低下を招く事態は避けねばならない。この2つの要素を両立させようと政府が立案したのが、人口が比較的少ない同県名護市辺野古沿岸に基地を移す計画だ」と説いた。その上で「これをいまさら覆すのは現実的ではない」「こうしたやり方がよい結果に結びつくとは思えない」と県側を諌めた。理性的に問題を詰めれば、そういうことになろう。

 また日経は、政府と沖縄県が対立した1995年~96年の代理署名拒否訴訟(米軍への土地提供に応じない地主の代理署名拒否で、当時の知事との訴訟は政府が勝訴)を例に、双方に感情的なしこりが残る法的決着の不毛に言及。両者がなお話し合い「どうすれば沖縄の基地負担を軽くできるか。政府と県が連携して考えてほしい」と訴えた。その通りではあっても、双方が理性的に話し合える環境は過ぎ去ったのではないか。

 読売は、翁長知事が承認取り消しの根拠とした知事の私的諮問機関が7月に出した報告書から、問題の原点に迫った。「辺野古移設の主眼である普天間飛行場の危険性除去に関して、報告書がほとんど言及していない」ことに疑問を提示。「自治体の正当な決定を一方的に覆すのは、あまりに乱暴」と批判した。産経は「(翁長氏は)辺野古移設を拒む『理想論』を掲げてきたが、それにより損なわれるものの重大性を考えるべきだ」と訴えたが、それぞれ正当な主張である。

◆中止に共感広がらず

 政府に埋め立て中止を求めた国会前の集会について「主催者発表で2万2千人が『辺野古の新基地反対』を訴えるなど、沖縄への共感は広がっている」と朝日は主張するが、時事通信の世論調査(小紙12日付)では「移設進めるべき」が40・7%に対し、「移設中止すべき」は35・6%。共感は広がっていないのである。

(堀本和博)