尖閣防衛、日米共同声明を歓迎 中山義隆石垣市長に聞く

 3月2日投開票が行われた石垣市長選挙では、現職の中山義隆市長が自民、公明の支持を得て、自衛隊配備反対を唱えた革新派で前市長の大浜長照氏に約4000票の大差をつけて再選を果たした。石垣市の自衛隊配備問題、中国船による尖閣諸島沖侵入問題、2期目の市政の抱負などを聞いた。(聞き手=那覇支局・竹林春夫)

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なかやま・よしたか 昭和42年、石垣市登野城生まれ。平成3年、近畿大学商経学部卒、野村證券(株)に入社後、平成8年、石垣島に戻る。平成16年、(社)八重山青年会議所理事長、平成18年9月、石垣市議会議員に初当選。平成22年3月、石垣市長に初当選。平成26年3月2日に再選し、同月20日に第19代石垣市長。

 ――連日のように中国の公船が尖閣諸島沖の接続水域を航行しているほか、何度か領海侵犯している。尖閣諸島を抱える石垣市長としてどう考えるか。

 尖閣周辺では中国の「海警」など公船による領海侵入が常態化してきており、地元漁民はほとんど漁ができないのが現実だ。中国がさらに圧力をかけるような動きに出ることを懸念している。

 海上保安庁からは巡視船の増強とそれに伴い石垣港を整備する話を聞いている。国が尖閣諸島をはじめ、領土、領海をしっかり守るという意思表示があることがありがたい。

 ――尖閣諸島をめぐる米国の対応をどのように受け止めているか。

 オバマ大統領が来日した際、日米首脳会談の共同声明で尖閣諸島の名前を上げて、日本の施政下にあり日米安保の対象となること、現状変更を狙った一方的な行動にも反対することなどの旨の発表がなされた。このことは南・東シナ海地域で力によって海洋権益や領土を拡大しようとする中国に対して強く牽制(けんせい)したと思われる。踏み込んだ発言をしたことについて歓迎したい。

 ――与那国島への陸上自衛隊配備は決まった。石垣市に自衛隊配備の打診があればどのように対応するか。

 国防や安全保障は国の専権事項であり、自衛隊の配備についても国が決めること。現状は誘致もしないが拒否もしない。仮に石垣島が配備の候補地になった場合には、具体的な内容や条件を聞き、市民にもそれらの情報を伝え、オープンな場で議論を深めていきたい。市長の独断で決めることはない。

 ――選挙告示日に琉球新報が1面トップで「陸自、石垣に2候補地」との見出しの記事を掲載した。選挙を戦う上でどのような影響があったか。

 大きな影響があった。告示から2日間はその対応に追われた。自衛隊の配備候補地に石垣島や宮古島、奄美大島などが挙がっていることは1年ほど前から言われていた話で、告示日に合わせた県紙の1面トップの大見出しには、何らかの意図を感じた。

 石垣市には二つの地元紙があり市民は主にそこを見ているので、配備報道が即日、全市民に知れ渡ったわけではなかった。その日のうちに自民党本部、県連、防衛省が速やかに抗議行動を起こし、自民党の石破茂幹事長や小野寺五典防衛相が報道内容を否定した。翌日の地元紙には配備報道と同時に抗議や否定の記事も出たため、マイナスの影響を最小限に抑えることができた。また危機感から我が陣営は気が引き締まった。

 逆に、相手陣営(大浜長照前市長)は「市民党」と称し、保革を超えた立場で選挙戦に臨んでいたが、この報道で一気に反基地、反自衛隊に主張をシフトした。革新色が前面に出たことで「市民党」のイメージが消えていった。

普天間飛行場の移設 危険性除去が最優先

 ――日台漁業取り決めは、地元にどのような影響を与えているか。

 尖閣諸島周辺での漁は台湾漁船の進出が顕著で近年、無法状態だったため、ルールを決めようとする姿勢は評価できる。しかし、新たな漁業エリアを台湾側に譲歩したことで地元漁業者は大きな不満を持っている。エリアの見直しも含め台湾との交渉は継続してもらいたい。

 最近、双方の漁業者代表でマグロはえ縄漁の投入時刻や方法についてルール決めがなされたようなので、今後の推移を見守りながら、国や県に対しては漁業者支援を求めていきたい。

 ――新石垣空港が開港して1周年を迎えた。観光振興が2期目の大きな政策の一つだが、どのようなまちづくりを目指すのか。

 新空港開港以来、入域観光客は好調な伸びを示している。これまでの観光事業の足固めをして、さらに継続的に観光客を呼び込める政策を打ち出したい。観光から派生して農業や漁業など他の産業の伸びに期待している。現在、新しい観光の目玉として水族館建設を計画しているが、任期中には着工したい。また、空港建設用地としてゴルフ場がなくなったので、新たに整備してMICE(注1)やインバウンド(注2)の誘客を進めていく。

 ――普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古沖移設についてどのような考えか。

 現状の危険性除去が最優先すべき課題だ。移設先については可能ならば「県外」が理想だが、日米両政府が合意した現行案で進めることが現実的だと思う。仲井真弘多知事の辺野古沖の埋め立て申請承認は行政手続き上のことで批判は当たらないと思う。ただ基地受け入れには地元の理解が必要である。1月の名護市長選挙では移設反対の市長が再選されたことを踏まえ、政府は県民に十分説明する必要があるだろう。

 ――八重山教科書問題で竹富町教育委は採択地区協議会の判断に従っていない。

 沖縄県教育委員会の不作為が目立った事象だった。文科省からの指導などに対して結論を出さず全て先延ばしし、責任を果たしていないと感じている。その結果が教科書採択に関する法改正の動きに繋(つな)がったのではないか。

 ――仲井真知事に対する評価は。

 一括交付金や沖縄振興策など、政府と丁寧に粘り強く交渉して実現したこと、政府と太いパイプを持って事を進めていることを高く評価している。地方自治体の首長からすると予算獲得は重要な仕事の一つ。那覇空港の第2滑走路着工も知事の大きな成果だ。石垣市においても県立八重山病院の新築や空港アクセス道路など課題解決に向けて仲井真知事の任期中、しっかりと連携し支えていきたい。

 ――4月27日の沖縄市長選では、自民、公明推薦の桑江朝千夫氏が当選したが。

 沖縄市の市長選挙で県知事が支援する候補者が選ばれたということは、市民、県民の多くは日々の生活、つまり経済活性化や生活の安定を求めているということだろう。基地に関しての課題はいろいろあるが、県政に対しても理解を示していると思う。

(注1)MICE 企業等の会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字

(注2)インバウンド 海外から日本へ来る観光客