対中への警戒が薄い「自由民主」
米印抜きのRCEP評価、核の傘に入らぬ選択示す「公明」
日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想に向けた国際的なコンセンサスが深まっている。クアッド(日米豪印)首脳会談、日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で覇権主義を強める中国の脅威に対抗することが確認された。
ただ、政府・与党とは言え自民党や公明党の機関紙誌で中国への警戒は、さほど論じられることはない。むしろ前述のような多国間の対中連携の輪を緩めるかもしれない内容もある。
その一つが、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)を扱った自民党機関紙「自由民主」(3・16)だ。政府が昨年11月に中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国、オーストラリア(豪州)、ニュージーランドと共に署名し、これから国会で批准審議が行われるのに合わせ、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)の西村英俊事務総長の寄稿を掲載した。
週刊8ページの同紙にしては6ページ目全面を割いた大きな扱いだが、「RCEPの源流は二階経産大臣(当時)に」(見出し)あることが理由だろう。記事中、ERIAが2007年に当時経産相だった現幹事長の二階俊博氏の下で創設されたことに触れている。
「日本主導により誕生したERIAには、日本からの拠出金と産学官からの人材派遣、そして自民党が中心となった超党派ERIA議員連盟など、オールジャパンで支援しており、日本が目に見える形で国際貢献している最も成功した例」だとして、RCEPを推進した役割を強調している。
日本アセアンセンターと紛らわしいが、これと別に「東アジア」として中国を加えたのがERIAだ。その上、RCEPの真ん中に位置し、同協定への署名を主導したのは中国である。国土、人口、市場・生産高など経済規模に加え、先端技術開発でも近年はわが国を凌駕(りょうが)する開発力がある。
RCEPによって関税を削減し、「データが自由に流通する環境を生かし、各地の工場がIoT(モノのインターネット)でつながる競争力ある国際的生産ネットワークを世界に先駆けて構築」するなどのメリットは、わが国に恩恵が及ぶだろうが、それ以上に中国に利益をもたらそう。
また中国は、RCEPに参加する豪州に経済制裁を発動した。新型コロナウイルス発生地への調査を求めたためで、RCEPは呉越同舟であることは否めない。問題は中国との経済関係を深めることで、国際法違反や人権問題に物が言いにくくなることだ。インドは参加しなかった。
米国のバイデン政権はトランプ前政権が行った対中制裁関税措置を維持しており、通商代表部(USTR)報告で中国の不公正貿易と共に新疆ウイグルでの人権問題などを通商政策の最優先事項の一つとしてリンクさせている。同盟国としてわが国も毅然(きぜん)とした態度を取れるか問われよう。
また、公明党機関紙「公明」4月号には核兵器禁止条約を特集する論文が載った。広島市立大学広島平和研究所所長の大芝亮氏は朝日新聞の世論調査から、日本の市民は日米安保条約を維持しながら同条約参加を支持していると解釈。岩波出版の雑誌「世界」掲載の記事を引用し「アメリカの傘には入るが、『核の傘』には入らなくてもよいのではないかというアイデア」や「少なくとも通常兵器による脅威に対しては、核抑止でなくても、通常兵器による抑止でも対応できるという考え方」を紹介し、選択肢に掲げた。
が、抑止力から米国の核を除けば日米安保体制を緩めることになる。中国には好都合な記事である。
編集委員 窪田 伸雄