「自由民主」緊急事態条項、コロナも大震災も後手に
憲法に根拠置く発令制度を
自民党の機関紙「自由民主」は、緊急事態宣言再発令に当たり「感染拡大を食い止める」(1・19)と菅義偉首相の記者会見での発言を大見出しに取った。年が明けても昨年来の新型コロナウイルス感染対策が政党機関紙・誌でトップになることが殆どだが、とりわけ首相を擁する政権与党に大きな責任と重圧が掛かっている。
感染が第2波、第3波と拡大し、首都圏の知事らが首相に緊急事態宣言発令を要請するまでの過程で、世論や野党からは政府の対応が後手に回っているとの批判も出た。開幕した通常国会では、緊急事態宣言発令の根拠法の新型インフルエンザ特別措置法に新たな罰則や支援を規定するため改正案が審議される。
ただ、流行して1年にもなるのに、まだ2009年発生の「新型インフルエンザ」という、民主党政権時代の特措法を借りるのがやっとだ。昨年の通常国会で、とにもかくにも宣言発令のため立憲民主党など野党との合意を急いだ弥縫(びほう)策にすぎない。しかし、やはり緊急事態宣言発令ほどの大権を政府が行使するには、憲法に根拠規定となる条項が設けられるべきだろう。
「国民投票法改正案の早期成立を」の見出しを1面に掲げた同紙昨年12月1日号は、「憲法本部 有識者ヒアリングを精力的に開催」の記事の中で、国士舘大学特任教授の百地章氏が「緊急事態条項について『国と国民を守るため世界のほとんどの国の憲法に明記されている』と指摘。大規模自然災害と悪性感染症のまん延に限定して同条項を盛り込むべきなどと主張した」と載せている。
憲法に規定を置き、恒常法を制定し、制度を整えておかなければ、どの政党が政権にあっても迅速な対応とはならないのではないか。
26年前の阪神大震災は社会党首班の村山富市内閣、10年前の東日本大震災は民主党首班の菅直人内閣で、いずれも初動の遅れが被害を広げた。昨年発生した新型コロナの感染拡大は自民党首班の安倍晋三内閣から菅内閣まで続いているが、ここでも対応が遅いと批判されてきた。
ワクチン接種も海外では始まっているが、わが国は早くて2月末。昨春のマスク配布も給付金支給も遅かった。おまけに法的根拠の弱さ故か、行政の自粛の呼び掛けを盾に「自粛警察」など行き過ぎた社会圧力が起き、医療現場の過酷な「努力」も限界だと指摘されている。
自民党の改憲案では緊急事態の発生に対処する法律を制定している時間がない場合、法律に従い内閣が政令を定めて国会承認を得る規定などが記されている。
また、若年層に理解を求める重要性はますます高まるとみられる。同紙12月22・29日付では「菅総裁に学生部員が直撃!」の記事で、青年局パンフレット『国に届け』の編集のため、菅首相を「柿㟢聡太さん(山形県連所属)、岩﨑仁美さん(東京都連所属)、溝口然さん(神奈川県連所属)、加藤千登世さん(大阪府連所属)の4人が」取材したと、若者への取り組みを強調した。現在、同党HPに公開されているマンガ付きの同パンフ第6弾は、憲法改正について扱っている。
委員任命拒否問題で揺れた日本学術会議には、社会科学分野で護憲派の学者が浸透している。占領下、戦後と、その影響は教科書や学校教育に広く行き渡った。学術界では自衛隊違憲論が多数派だ。未来を担う生徒はもちろん、日本に住む外国人も増えることから、彼らの日本語力でも理解できる条文でありたい。
憲法を一言一句たりとも変えさせまいと存在感をアピールしてきた野党も考え直すべきだろう。
編集委員 窪田 伸雄