「自由民主」、2050年「排出ゼロ」推進を広報
脱炭素社会は原発などが争点、再生エネに機運
温暖化が原因とみられる自然災害が世界的に起きている。菅義偉首相が10月26日に行った所信表明演説の中で、デジタル庁設立と共に具体的に踏み込んだ目標として掲げたのが、「わが国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という「グリーン社会の実現」だった。「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と誓っている。
産業界と繋(つな)がりが強く、大所帯のため意見をまとめるのに玉虫色の文言を用いるイメージの自民党にとって、菅首相が打ち出した「ゼロ」という完璧を期す目標は苦手に思える。だが、同党機関紙「自由民主」(11・24)は、1面に「2050年の脱炭素社会実現へ/党推進本部が初会合」の見出しで、大きな方針の年内提言に向け政策作りに入ったと広報した。
これは同党が10日、「総裁直属の『2050年カーボンニュートラル実現推進本部』(本部長・二階俊博幹事長)を設置」し、11日に開催された初会合での電気事業連合会と日本鉄鋼連盟からの意見聴取について扱ったものだ。
カーボンニュートラルについて同紙は、「温室効果ガスの大半を占める二酸化炭素(CO2)の排出と吸収が相殺されるようなエネルギーの利用の在り方」と説明し、「政府与党はこれまで2050年までにCO2排出量を80%削減することを目指してきたが、脱炭素化に向けて菅総理がさらに踏み込んだ目標を掲げたことから、カーボンニュートラルに則した新技術の開発が急務になった」と、所信表明演説のインパクトを伝えた。
このような新技術の開発を政府・与党は経済成長戦略の一環としているが、実現できるかが焦点となる。目標まで30年の期間もイノベーションを起こすのに必要な時間であろうが、CO2を排出しないクリーンなエネルギーとして現在ある原子力発電の活用という議論が生じている。
同紙は、「電事連は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取り組みを進めていくとした上で、原子力発電所の再稼働などについて要望した」と報じるとともに、「出席議員からは、原子力発電所の再稼働に理解を示す意見が出たほか『国土強靭化に資する水力発電も活用すべきだ』などの意見が出された」と指摘した。
水力発電はダムだが、原発とダムは民主党政権が否定し、流れを汲(く)む立憲民主党は「原発ゼロ」にした「2050年CO2排出ゼロ」を公約。ダムについても7月の熊本県豪雨災害を機に浮上した川辺川ダム建設論に、同党機関紙「立憲民主」9月14日号は「災害対策・河川防災/ダム是非論の前に検証を」と題して、矢上雅義衆院議員(熊本4区)が慎重論を展開した。
一方、公明党は「地球温暖化対策推進本部」(本部長・石井啓一幹事長)を設置。「公明新聞」(11・14)は石井氏の記者会見を扱い、「再生エネルギーを普及させるための送電網への投資や、蓄電技術、水素エネルギーの実用化、カーボンリサイクル(二酸化炭素の再利用)といった革新的な技術」の開発を後押しすると強調している。同党は原発の再稼働については容認する姿勢だ。
19日には衆院本会議で脱炭素社会の実現に向け、「気候非常事態宣言」が与野党の賛成多数で決議された。当面の原発再稼働はどこまで認めていくのかなど争点となろうが、石炭・石油に代えて風力発電、太陽光発電など再生可能エネルギーを普及させていく機運は、政府と与野党のコンセンサスを得て高まっている。
編集委員 窪田 伸雄






