「自由民主」にコロナ後社会 デジタル化で一極集中是正へ
感染対策と経済の両立を
新型コロナウイルス感染の世界的流行から約半年、コロナ事態を受けて初の来年度予算編成を前に、自民党機関紙「自由民主」(8・4)は「コロナ後の社会像示す」の主見出しで岸田文雄党政調会長インタビューを1面に特集した。
岸田氏は、予算編成の指針となる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)について「アフターコロナの新たな経済社会の姿の基本的方向性を示す」ことが一つの柱になると指摘。「デジタル化を強力に推進し、地方創生にもつなげ」、「早い給付を可能とし、リモート化の進行は都市部への居住を不要とする時代を到来」させるなど、今後の社会を展望した。
具体的には「次世代型行政サービス、デジタルトランスフォーメーション(DX)、新しい働き方や暮らし方、旧来の制度や慣行の見直しなどを推進し、デジタル化への集中投資と社会実装を実行」することによって、「スマートシティの実現などによる東京一極集中型から多核連携型への変革」をもたらす国土計画を構想している。
そのための予算案が編成され、国会で議論されることになるが、見方によれば、戦後延々と続く東京一極集中が初めて是正されるチャンスかもしれない。東京は「密」を避ける感染対策に反する超過密都市だ。
一極是正は、これまで国論に浮上したが、成果なき難問だ。記憶に新しいのは人口問題で、このまま地方の過疎が続くと自治体が消滅し、日本の人口は減少し続けるため、回避策として一極是正が唱えられた。が、東京都の人口はなおも増え、今年1400万人を突破している。
かつては「首都移転」も打ち出された。1987年に策定された第4次全国総合開発計画で、「多極分散型の国土計画」が謳(うた)われ、その起爆剤に「首都移転」構想が自民党はじめ与野党で議論された。地価バブルも背景にあったが、候補地選定をめぐり栃木、愛知など「首都」誘致に自民党実力者がせめぎ合い、国会決議もされ、92年には国会移転法が制定された。
しかし、これもバブル崩壊後の平成の大不況時代の中で機運を失っていく。人々は地方で仕事を失い、ますます東京など大都市に職を求めに来た。コロナ後の社会では、地方で仕事をして儲(もう)かるデジタル化でなければならないだろう。
公明党の機関誌「公明」9月号は「感染不安払拭こそ本格再生の鍵」との特集を組む。経営共創基盤代表取締役・冨山和彦氏の論文に「公的資金の機動的活用で命救い、経済も守れ」のタイトルを付け、コロナによる経済危機は「10年前のリーマンショックを超え、戦後最大の危機となる」との指摘は、17日発表の国内総生産(GDP)速報値に戦後最悪の年率換算27・8%減となって表れた。
冨山氏は「20年余り前の我が国の金融危機の頃に自殺率が急上昇し、長らく高止まりしたことで分かるように、経済的弱者にとって困窮はまさに命の問題」だと述べ、当時の「逐次投入」の失敗を教訓に「コロナショックにおいても、政府として必要な時は思い切り介入する一方で、危機が収束した後はメリハリの効いた鮮やかな撤収を行うこと」が必要と訴えた。
失業率が4%を超えた98年から自殺者の3万人超えは、民主党政権時代の11年まで続いた。緊急事態宣言など自粛による経済ストップの打撃が、再び自殺率を押し上げコロナ感染死亡者を上回るようになっては泣き面に蜂になる。感染対策と経済活動を両立させるコロナ後の社会創造に向け、政府・与党は重要な局面を迎えている。
編集委員 窪田 伸雄






