皇位継承の正統性 男系で守る皇統の権威

女系で「万世一系」は断絶

 御代(みよ)替わりを受け、皇位の安定継承に関する議論が活発化している。立憲民主党は「女性天皇」だけでなく、父方に天皇のルーツを持たない「女系天皇」を認めるべきだとする論点整理を公表。かつては「天皇制」打倒を訴えていた共産党も女性・女系天皇の容認を打ち出している。

 女性・女系天皇については、安倍政権は反対の立場。特に、保守派は「男系男子」による皇位継承を維持することを基本とするだけでなく、多くの党が前向きな「女性宮家創設」にも反対する。国民民主は「男系女子」を容認する。

 このように、与野党で皇位継承に関する論議が活発化しているのは、上皇陛下の退位を可能にした天皇退位特例法(2017年)が付帯決議で、退位後、速やかに女性宮家の創設など、皇位の安定継承について検討し、国会に報告するよう政府に求めているからだ。

 月刊誌7月号でも、「女性・女系天皇」をめぐる論考が目立つ。国士舘大学特任教授の百地章、京都産業大学名誉教授の所功、ノンフィクション作家の保阪正康、国際政治学者の三浦瑠麗、東京大学史料編纂(へんさん)所教授の本郷和人による討論「男系か女系か『愛子天皇』大論争」(「文藝春秋」)、作家の竹田恒泰の論考「女性・女系天皇・女性宮家 魔語(レトリック)で皇統断絶を企む宮内官僚(「WiLL」)などだ。

 まず確認しておく必要があるのは、現在の皇位継承の原則である。それが「男系男子」だ。つまり「『父方』を辿れば歴代天皇に遡ることができる、ということ」(保阪)で、この原則が神武天皇から126代、2600年以上の「万世一系」の皇統を守っているのだ。そして、天皇の権威や、皇室に対する国民からの信頼は、この世界に類を見ない長い伝統と深く関わっているのである。

 男系継承の原則からすれば、秋篠宮皇嗣殿下のご長男、悠仁殿下は将来、皇位を継がれることになるが、皇位の安定継承についての検討が求められているのは、悠仁殿下の次の世代に皇位継承資格者がいないという現実からだ。

 そこで、「女性天皇」あるいは「女系天皇」容認論が出ている。世論調査でも、女性・女系天皇、あるいは女性宮家の創設に賛成する割合が多くなっている。しかし、国民が「女性天皇」と「女系天皇」の違いだけでなく、女性・女系天皇が出ることが何を意味するのか、そのことを十分に理解しているとは思われない。

 所の説明によると、女性天皇は、男性の天皇・親王の下に生まれた皇族女子が即位した場合であり、これまでの歴史上、8人10代実在する。しかし、「いずれも夫君の没後か未婚のまま即位されていて一代限り」。これに対して、女系天皇は母方を辿(たど)る系統で、「女性天皇と結婚した夫君との間に生まれた皇子・皇女が即位する場合」だが、歴史上に前例がない。

 本郷は「『女性天皇』がいったん誕生すれば、『女系天皇』が生まれるのは、もう止められない」と指摘する。筆者も同感である。なぜなら、すでに所が指摘したように、これまでの女性天皇はすべて一代限りだったが、現代では女性天皇が即位した場合でも、その結婚は禁止できない上、もし子供が生まれれば、世論は「女系天皇」に賛成すると思われるからだ。つまり、ここで男系による万世一系の皇統は断絶することになる。

 また、竹田の説明によれば、「皇族である宮家は、万が一のときに天皇を輩出するために存在」。もし、女性宮家を創設し、皇族として残っていただいた場合、「ご結婚相手の男性は一般人なわけですから、万が一の場合に天皇を宮家から出すことになれば、父系をたどっても、母系をたどっても歴代天皇に行き着かない天皇が誕生することになる」。つまり、女性宮家を創設すれば、皇統の断絶につながる危険性が高いことになる。保守派が男系男子の堅持を主張する一方で、女性宮家の創設にも反対するのはこのためだ。

 一方、政治学者の原武史は「国外のメディアから見れば、男性しか皇位を継承できない天皇制は、日本社会の男女不平等の縮図ととらえられる」(「時評2019 皇室報道をめぐる内外の落差」=「中央公論」7月号)と指摘する。確かに、皇室の伝統の中に「男女不平等」を見る海外メディアがあっても不思議ではない。近代合理主義的な発想しかできないジャーナリストの目にはそのように映るだろう。

 だが、平成から令和への改元を機に、日本の皇室に対する国際的な関心が高まっているのも事実。その理由は幾つかあるが、万世一系で長い歴史を紡いでいることが大きいのであろう。

 前出の原は、男性しか皇位を継承できないことへの反対運動が一向に盛り上がらないことを、「奇妙」に見る海外メディアから「なぜ多くの女性は声を上げようとしないのかという疑問をぶつけられた」と述べているが、女性に限らず多くの国民は万世一系に、天皇の正統性と権威を感じるのであって、リベラル・左派の政治家や言論人が「皇室に男女平等を」などと煽ったところで、それに同調する国民がそれほど多いとは思われない。世論調査で、「女性宮家の創設」「女性天皇」「女系天皇」についての「賛成」が多くなっているのは、これらの意味するものと、皇室の伝統に対する理解が不十分だからではないのか。

 そんな中で、ジャーナリストの門田隆将は、「男系」に異を唱える朝日新聞を例に取りながら、「あらゆる手を使って、日本を日本たらしめているものを排除したい勢力は存在する。二千年に及ぶ決まりさえ途絶させ、悠仁親王の事実上の廃嫡論が公然と主張される今、心ある日本人は彼らの意図を冷静に見極める必要がある」(「事件の現場から 天皇・皇室に牙をむく朝日新聞」=「WiLL」7月号)と訴える。

 共産党の女性・女系天皇容認にも同じことが言える。朝日新聞出版発行の週刊誌「AERA」6月17日号で、編集部から女性・女系天皇についての共産党の立場を問われた同党委員長の志位和夫は次のように述べている。

 「これは今まであまり説明したことがないのですが、私たちは女性・女系天皇を認めることに賛成ですし、性的マイノリティーの方など、多様な性を持つ人びとが天皇になることも認められるべきだと考えています」。これで共産党の意図は説明するまでもないだろう。

 悠仁殿下がお生まれになる前の平成18年、当時の小泉政権時代に「女系」の皇位継承を認める内容の皇室典範改正案を通常国会に提出する方針となったが、秋篠宮紀子殿下がご懐妊なさったことで提出が見送られたのは、皇室典範の改正は事実上の廃嫡になるからだった。

 現段階で、悠仁殿下の次の世代に皇位継承資格者がいないのは事実だが、その現実に目を奪われ、短絡的に皇位継承の安定性を確保しようとして出てきているのが女性・女系天皇容認論と言える。しかし、次世代に皇位継承者が出ないと決まったわけではない。その段階で、万世一系を途絶えさせることにつながる皇室典範改正は絶対に避けるべきである。それよりも、天皇の正統性と権威に疑念を生じさせないために、男系継承をどうしたら堅持できるのか、これに知恵を絞るべきであろう。(敬称略)

 編集委員 森田 清策