LGBTの真実? 割合示す数値に大きな差
「弱者」「差別」否定の当事者も
同性婚が認められないのは、婚姻の自由を保障する憲法に反するとして、同性カップル13組が国家賠償を求めて提訴した。いわゆる「LGBT」(性的少数者)支援活動家たちは、同性婚の制度化という“本丸”を目指して、攻めてきたのだ。
憲法24条に「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として」とある。「両性」は男女を意味することから、わが国の憲法は婚姻を男女に限定し、同性カップルは婚姻の対象外だというのが、これまで専門家の多数意見だった。もし、24条の真意は当人の意思の尊重と平等だから、現行憲法は同性婚を禁じていないと、司法が憲法解釈を変えることがあるとすれば、最近のLGBTのブームの影響を受けてのことだろう。
一方、同性婚の制度化が司法の場で争われるまでにLGBTブームが高まったことによって、逆にこのブームが果たして冷静な議論の結果として起きているのか、ということに対する疑問が論壇で提示され始めている。その一つは、「正論」3月号に掲載された麗澤(れいたく)大学教授・八木秀次の論考「真実はどこ? LGBTは生まれつきか」だ。
現在のLGBT支援運動の基本的構図は、講演会やメディアへの露出などを通じて、同性愛者などは「異常」ではないとの認識を社会に広めて差別を解消しようというもの。そのために行われているのが地方自治体レベルでの同性パートナー制度の拡大であり、国政レベルでは、LGBTに対する理解増進法(自民党)や差別禁止法(野党)の制定、それに同性婚の制度化だ。こうした動きは、同性カップルに対する公的承認であり、それによって現在、夫婦に与えられている権利と同等の権利を獲得するとともに、彼らに対するスティグマ(烙印(らくいん))を消そうというのだ。
この目的を達成するため、活動家たちが研修会やメディア通じて、社会に浸透させようとしている数値と知見がある。少数派とはいえ、LGBTは社会一般に考えられているよりもはるかに多いことを示す調査結果と、もう一つは自分の恋愛感情や性欲がどの性別に向かうかという「性的指向」や、自分の性別をどう思っているかという「性自認」は「生まれながらのもの」で、自分ではどうしようもないという知見だ。
まず、LGBTが社会にどれくらい存在するか、という数値を見てみよう。八木は電通の調査で、2015年に7・6%だったのが、昨年は8・9%と、3年間で1・3ポイントも増えたことを紹介。その上で、1・6%という名古屋市が昨年行った調査結果、同性愛者は約0・13%と推計した韓国性科学研究所の推計を対比し、「これだけ調査によって数字がばらつきがあると、どれが真実なのかわかりにくい」と、至極まっとうな感想を述べている。
活動家たちは当然、大きな数値を広めようとするし、メディアもそれを手助けする。しかし、現在のLGBTブームに疑問を持つ八木は、LGBTをめぐる数値が一人歩きしていると見る一方で、「LGBTを正面から論ずることはタブー視されている。しかし、怪しい数字や誤った認識で施策が行われたのでは当事者にとっても幸せなことではない」と強調する。
一方、同性愛は生まれつきのものかどうかについては「後天的」とした前述の韓国の研究者らの研究、幼児期の性的虐待などの「環境的要因」を挙げ、同性愛から異性愛者に変わることが可能だとした米国の研究者の知見を紹介した。
そして「正直、私には以上の研究について当否の判断はできない」としながら、「しかし、タブー視される中で一部の人たちの一方的な意見だけが通り、政策となることは誰にとっても不幸だと思う。科学的知見を前提とした冷静な議論が求められている」と述べている。
LGBTブームを拡大させる上で、支援活動家が使っている戦術に性的少数者は「弱者」で差別に苦しんでいるとするイメージ作りがある。しかし、ジャーナリストの福田ますみは、複数の男性同性愛者(ゲイ)の当事者に取材し、「同性愛者=弱者」ではない上に、現在のLGBT運動に違和感を持ち、理解増進法も差別禁止法も同性婚も必要ないと考えている性的少数者が少なくないことを伝えた論考を発表している(「黙殺され続けるLGBT当事者の本音」=「Hanada」3月号)。
福田がまず取材したのは、「北陸地方のとある街に住むかずと氏」。衆議院議員の杉田水脈(みお)が月刊誌「新潮45」昨年8月号に論考「『LGBT』支援の度が過ぎる」を発表したあと、そこで使われた「生産性がない」という言葉は当事者に対する差別だとして、杉田バッシングが巻き起こったが、彼はこのバッシングに大きな疑問を感じた男性で、同誌がのちに組んだ杉田擁護特集に論考を寄せた一人だ。
まず驚くのは、侮蔑感情が含まれているとして、今のLGBT運動で使うことがタブーとされている「ホモ」という言葉を、彼があえて使い「私はLGBTとは無縁なホモにすぎない」と断言していることだ。これだけでも、これまでにメディアが作り上げた性的少数者のイメージは覆ってしまう。
そして、「同性愛者=弱者」であることを否定するかずとは「特に不便を感じていないんですよ。そういうことは別世界の話ですね。そう考えているゲイは少なくないと思います」と吐露する。これについて、福田は「問題なのは、こうした声がマスコミに見事に黙殺されたことだ」「かずと氏のいまの一番の願いは、LGBTブームなるものが一刻も早く終息することだ」と述べている。
このほか、福田は他の複数のゲイ当事者に取材し、「差別が皆無かといえば、無理解から来る差別的な状況はまだあると思う」「LGBTを過度に人権問題化することと同性婚には反対です」などの声を伝え、これまでのLGBT運動で作られた性的少数者のイメージとは違う当事者の本音を伝えている。
行政が同性カップルの関係を承認する「同性パートナーシップ制度」は現在、東京都渋谷区など11自治体が導入しているが、司法が同性カップルの結婚を容認するかどうかは、この制度がどこまで広がるかなどにも左右されるだろう。そこに影響を与えるのは、これまで伝えられてこなかった性的少数者の真実をメディアがどれだけ報じるかだ。それが同性婚やパートナーシップをめぐる問題で、社会が賢明な判断を下すための必須の条件であろう。(敬称略)
編集委員 森田 清策