辺野古埋め立て承認を「撤回」

《 沖 縄 時 評 》

県の撤回事由に根拠なし、知事選へのパフォーマンス

◆反辺野古派の断末魔

辺野古埋め立て承認を「撤回」

米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関し、前知事による埋め立て承認の撤回手続きに入ると表明した沖縄県の翁長雄志知事(当時)=7月27日、県庁

 翁長雄志沖縄県知事の死去に伴う県知事選が13日に告示され、30日に投開票が行われる。自民、公明、維新が推す佐喜真淳氏(前宜野湾市長)と、翁長県政の継承を唱える野党の推す玉城デニー氏(自由党幹事長)の一騎打ちになる見通しだ。

 それに先立って県は8月末、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事の埋め立て承認を撤回、県知事選へ露骨な政治介入を行った。

 これは反辺野古派の断末魔と言ってよい。撤回には合理性がなく、政治的パフォーマンスにすぎないからだ。翁長氏が当選した4年前の「オール沖縄」の熱気は消え失せ、市長選で容認派に負け続けている焦りからの撤回劇だ。

 米軍基地問題が焦点となった宜野湾(2016年1月)、浦添(17年2月)、うるま(17年4月)、自衛隊基地建設の是非が問われた宮古島(17年1月)の各市長選、与那国町長選(17年8月)で容認派が勝った。

 今年に入ってからも辺野古の地元の名護市長選(2月)、尖閣諸島があり自衛隊基地が争点となった石垣市長選(3月)、嘉手納米軍基地があり県下第2の都市である沖縄市長選(4月)で容認派が勝利した。

 この背景には翁長氏の反辺野古闘争の欺瞞(ぎまん)が浮き彫りにされたことが挙げられる。仲井眞弘多知事(当時)が13年12月に政府の辺野古移設への埋め立て申請を承認したが、翁長知事はこれを否定しようと「裁判闘争」を繰り返してきた。

 15年10月には埋め立て承認を取り消したが、国は代執行訴訟を起こし16年12月に最高裁は知事の承認取り消しを違法と断じた。裁判で県は「辺野古反対が民意」と主張したが、判決は「民意」に疑問を突き付け、県の主張を退けた。これを受けて県は取り消しを撤回、工事が再開された。

◆主張対立し内部分裂

 そこから反辺野古派の内部に二つの主張が生まれ、亀裂が生じた。一つは辺野古反対の「民意」を改めて示し県民が移設工事に反対しているとの公益を明確にして、それを根拠に撤回するという「公益撤回」の県民投票派、もう一つは埋め立て承認を撤回できないなら、承認後に「留意事項」(承認の条件)の違反を探し出し、それを根拠に承認を撤回するという即時撤回派だ。

 こうして反辺野古派は県民投票派と即時撤回派の「反対運動体内の異論分裂」(仲宗根勇・うるま市具志川9条の会共同議長)を露見させ、「オール沖縄」の瓦解(がかい)に拍車を掛けた。

 今年2月末、県民投票に消極的なオール沖縄会議に愛想をつかし、同会議の中心人物の金秀グループ会長、呉屋守將氏が共同代表を辞任した。

 県民投票派は、即時撤回派を痛烈に批判する。武田真一郎・成蹊大学教授は、現在進められている工事は留意事項違反などの「違法だらけ」なので即時撤回をすべきであるとの主張(つまり要件事後喪失撤回)について次のように反論している。

 〈埋め立て承認などの行政処分の取り消し・撤回は、相手方が有している権利を剥奪する処分であるから、よほど強い違法性や公益上の必要性が認められる場合でなければできない。これを欠いてなされた撤回は裁判所に違法と判断され、結局、埋め立て工事は再開する。

 仮に現在進められている工事に留意事項違反などの違法性があるとしても、県としては国に協議や工法変更の申請を求めるのが適切な対応であり、いきなり撤回すれば権限の乱用として違法と判断される可能性は極めて高い。工事に違法性があれば直ちに撤回できると単純に考えることは誤りである。〉(沖縄タイムス18年4月28日付)

 県の実務者も同様の見解を有しているようだ。翁長氏が7月末に撤回に向けた手続きに入ると表明した際、地元紙は次のように報じている。

 〈(辺野古の)公有水面埋立法を所管する土木建設部の関係者の一人は「あくまでも『留意』する事項で、留意事項に違反したからといって公水法にまで抵触するとは言いにくい」と専門的な立場から意見する。

 別の関係者も、県が指摘する事前協議や環境保全措置などといった留意事項違反だけの「撤回は厳しい」との見方を示す。「承認」は正当だと認める、「許可」は禁止されている行為を認めるといった意味があるとした上で、「県は埋め立てを『承認』をしている。一度正しいと言ったものを覆すことはかなり難しいことだ」と撤回のハードルの高さを説明した。〉(沖縄タイムス7月29日付)

◆ジュゴン訴訟は不発

 これに対して即時撤回派は撤回事由作りに躍起となってきた。その一つはジュゴン訴訟だ。日米の自然環境団体が辺野古工事は米国の国家歴史保存法(NHPA)に違反するとして、米連邦地裁に建設中止を求める訴えを起こした。

 米国サイドから辺野古工事阻止を狙ったものだが、サンフランシスコの連邦地裁は8月3日、「工事はジュゴンに与える影響を十分考慮した」として訴えを退けた。ジュゴン訴訟はあえなく不発に終わった。

 次に持ち出したのは活断層だ。今年2月にオール沖縄会議主催の「活断層シンポジウム」で地質・地震研究の専門家が辺野古岬の東側の大浦湾に活断層が存在すると指摘。さらに大浦湾側の護岸設計個所に「軟弱地盤」がある、国立沖縄工業高等専門学校(沖縄高専)の校舎などが米国防総省の決めた「高さ制限」に抵触しているなど、次々と撤回事由を言い立てた。

 こうした反辺野古派が作り出した撤回事由を県はそっくり採り入れ、撤回の理由とした。だが、いずれも県関係者が言うように無理がある。

 沖縄防衛局が現在埋め立て準備を進めているのは辺野古側で、活断層や軟弱地盤があるという大浦湾側ではない。仮に問題があるなら困るのは国や米軍だから、防衛局は念入りに調査し工事を進める。いきなり撤回するのは権限乱用だ。

 「高さ制限」も筋違いだ。米側と国が調整すれば済む話だ。もともと離着陸いずれも集落上空を通過しないように辺野古沖合にV字型の滑走路を造る計画だ。

 このように県の撤回に合理性はない。国は裁判を起こし、撤回は今度も違法とされるだろう。誰が知事になろうと、辺野古移設は進んでいくのである。

 増 記代司