「加計」騒動の本質 既得権失う官僚の反乱

政治主導で「自治王国」崩壊

 野党や左派メディアがあれほど大騒ぎし、国会閉会中審査にまで至った「加計(かけ)」問題。安倍晋三首相が友人のために行政手続きを歪めたとの前文部科学事務次官・前川喜平の主張を裏付ける明確な証拠は、閉会中審査でも一つも出てこず、疑惑追及は空振りに終わった。その結果、加計に関する新聞・テレビの報道は8月に入ってめっきり減った。

 一方で、月刊誌9月号では、加計をテーマにした論考がまだ続いている。加計を倒閣運動に利用しようとする野党や左派メディアとは一線を画して、問題の本質を浮き彫りにしようとの試みだ。そこで識者らが強く指摘するのは、一連の騒動は3年前に内閣人事局が発足したことで、既得権益を失った官僚の反乱(一部個人的恨み)だったという分析だ。

 こうした月刊誌企画の代表は、官僚OBたちの座談会「言ってはいけない 官僚の真実」=(「正論」)だ。ここでは、二つの点で出席者の見方が一致している。一つは、左派メディアが持ち上げる前川の言動に対する厳しい批判である。「前川氏は官僚のクズだと思いますよ」(元経産官僚の岸博幸)という声もあった。

 さらには「天下りキング」(元財務官僚の高橋洋一)との指摘も。天下り問題で、本来なら懲戒免職になってもおかしくない人物が、文科省改革を阻止するために騒いだだけで、そこに倒閣運動を推し進める勢力や左派メディアが飛び付いたという構図である。

 閉会中審査を行っても前川が主張した安倍政権の“疑惑”を裏付ける証拠が出て来なかったことで、前川を持ち上げたメディアへの反発が今後強まるだろう。

 官僚OBたちの間で意見が一致したもう一つの視点は、3年前に「内閣人事局」が発足して進む公務員制度改革があり、この改革への抵抗が加計問題の背景にあるというのだ。この点については他の論考でも識者が指摘している。

 前川=善、安倍首相=悪という勧善懲悪の構図を作り上げて、読者・視聴者の興味をかき立て、ひいては倒閣につなげるために、印象操作を続けていた新聞・テレビがあまり報じなかったにもかかわらず、公務員改革への一部官僚の反乱という見方が、今回の騒動の核心を突いていると見て間違いない。

 日本には優秀な官僚組織があって、それが政治や社会の安定に寄与してきた、と長い間評価されてきた。しかし、本来、政治家がやるべき仕事を、官僚が肩代わりするうちに、裁量権や天下りなどの既得権益が膨らみ、その割に政治責任を取らずに済む「理想的な官僚の自治王国」(元外務官僚の宮家邦彦)ができあがった。

 その頂点にいたのが事務次官で、人事権が求心力になっていた。それが「政治主導」で内閣人事局に移り、天下りもできなくなった。

 このため、評論家の潮匡人は政治評論家・屋山太郎との対談の中で、「今回の“卑怯な反乱”には、官僚たちが自分たちで都合よく回してきた省庁の人事権を内閣人事局(内閣官房)に召し上げられたことへの不満も見え隠れします」(「怪しいのは安倍でなく石破!?」=「WiLL」)と語っている。

 政治主導による改革への官僚の抵抗は、民主主義に対する反乱にも等しい重大問題だが、これを報じる新聞・テレビがほとんどないのは、自分たちが描いた勧善懲悪の構図が崩れるからだ。この事実一つとっても、日本の左派メディアがいかに恣意(しい)的な報道を行っているかが分かる。

 国際政治学者の三浦瑠麗(るり)が鋭い指摘を行っている。「加計学園をめぐる問題についてつくづく驚くのは、獣医学部新設程度の問題でこれだけの政治力が必要だったということ。獣医師会や族議員、文科省の抵抗があり、国家戦略と銘打つにはスケール感の小さい政策を動かすのにさえ、これだけの政治的エネルギーが必要なのです」(「政権の弱体化が露わにしたもの」=「Voice」)。

 獣医学部の新設という小さな問題に、多大な国家的エネルギーを費やすことになった一因に、左派メディアの倒閣運動があったことも忘れるべきでない。

 「正論」の対談で、岸が興味深い指摘を行っている。「実は大学設置審議会などは文科省の『結論ありき』で話が進められている」というのだ。そうだとすれば、今治市への獣医学部設置にはまだ大きな壁が立ちはだかっていることになる。

 編集委員 森田 清策